2024年04月26日( 金 )

貧乏脱しても財布のヒモは緩まず~財務データから見たカープの経営哲学(中)

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稼いだ金で次々に大きな設備投資

 では、「貧乏球団」を脱した今、カープのお金の使い方はどうなっているのか。その観点からカープの毎年の決算公告を検証すると、目を引かれるのが固定資産の金額の推移だ。

2006年 21億600万円
2007年 20億300万円
2008年 23億7,200万円
2009年 23億7,000万円
2010年 24億4,400万円
2011年 26億7,100万円
2012年 27億8,100万円
2013年 27億3,200万円
2014年 38億7,700万円
2015年 46億8,400万円
2016年 55億4,000万円
2017年 68億5,700万円
2018年 68億4,800万円

 驚くことに、10年余りの間にカープの固定資産は47億円余り増加している。一体なぜなのか。調べたところ、カープが次のような設備投資をしていたことがわかった。

(1)大州寮(広島市南区大州)

 マツダスタジアムの徒歩圏内にある4階建ての選手寮。広島市西区三篠町にあった従来の選手寮が老朽化したため、この大州寮が新たにつくられた。登記申請の受付は土地の所有権移転が2010年4月20日、建物の所有権保存が2011年4月7日。

(2)宇品倉庫(広島市南区宇品海岸)

 カープグッズの倉庫。選手のユニフォームなどを洗濯するクリーニング場やTシャツ工場も併設している。カープは何か良いことがあると、すぐに記念Tシャツ(例:小園選手プロ初本塁打記念Tシャツなど)を販売するが、その生産はここで行われている。登記申請の受付は土地の所有権移転が2010年7月23日、建物の所有権保存が2013年5月28日。

(3)マツダスタジアム室内練習場(広島市南区西蟹屋)

 鉄骨造3階建ての室内練習場。3階の歩行デッキはマツダスタジアムに接続している。登記申請の受付は土地の所有権移転が2014年3月26日、建物の所有権保存が2015年6月8日。

(4)大州物流倉庫(広島市南区大州)

 マツダスタジアムから徒歩圏内にあるカープグッズの倉庫。グッズの売上が好調で、宇品倉庫やマツダスタジアム内の倉庫だけでは手狭になり、この倉庫が新たにつくられた。登記申請の受付は土地の共有者全員持分全部移転が2016年3月10日、建物の所有権保存が2017年3月28日。

 これらの物件のうち、大州寮の総工費が2億円だったことは、中国新聞の報道で確認できたが、それ以外の物件については土地の取得金額や建物の総工費が一切わからなかった。だが、登記申請の年月日から考えて、カープの近年の大きな固定資産の増加はこれらの物件によるものとみて、間違いないだろう。

 このほか、2016年11月には、松田元オーナーが2軍の本拠地でもある「由宇練習場」(山口県岩国市由宇町)について、2、3億円かけて大改修する計画を明かしたという報道があったので、この改修費も固定資産として計上されている可能性がある。このようにカープが次々に設備投資をできているのも、財務状況が良くなったからこそだろう。

 一方、カープ球団のお金の使い方といえば、選手たちの年俸も気になるところだ。

 カープは80年代に黄金時代を築きながら、90年代以降に戦績が低迷したが、それは資金力のある球団に有利なFA制度とドラフトの逆指名制度ができたからだった。ドラフトの逆指名制度は2006年を最後になくなり、カープは2016年からセ・リーグ3連覇をはたすなど戦力アップが著しいが、近年も大竹寛投手と丸佳浩外野手という主力選手がFA宣言し、資金力のある他球団に移籍している。一方で、カープは12球団で唯一、FA宣言選手を獲得したことがまだ一度もなく、この事実は今も補強予算が限られていることを示している。

 そこで、選手たちの年俸も調べてみたのだが、まずは、【表Ⅲ】を見ていただきたい。これは、日本プロ野球選手会が毎年行っている支配下公示選手(外国人選手は含まず)の年俸調査の結果を基に作成したものだ。

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※クリックで拡大

 これを見る限り、やはり以前のカープの選手たちの年俸は破格に安かったといえるだろう。とくに選手の年俸総額が12球団中10〜12位を推移していた2003年から2014年にかけては、この間に戦績がセ・リーグの最下位に沈んだのは1度だけなのに、選手の年俸総額が12球団のなかで最下位になった年が6度もある。この事実は戦績に関係なく、選手の年俸が安く抑えられていたことを示している。

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※クリックで拡大

 ただ、2015年以降は選手たちの年俸総額も次第に増えており、2019年は5位まで順位を上げている。この順位をどう評価すべきかを考えるに際しては、【表Ⅳ】を見ていただきたい。この表も日本プロ野球選手会の調査結果に基づいて作成したものだ。選手の年俸総額が1位の福岡ソフトバンクと同2位の巨人は近年の戦績がカープと同等以上だが、同3位の阪神と同4位の東北楽天は近年の戦績がカープより明らかに劣っている。これは一見、カープが阪神、東北楽天の2球団に比べて、選手の年俸を安く抑えている証左のようにも見える。

 だが、事実関係を精査すると、阪神と東北楽天はいずれも近年、FA宣言した大物選手を複数獲得している。そして2019年にそれらの選手に支払った年俸(金額はすべて推定)は、阪神が総額6億円(内訳は糸井嘉男外野手に4億円、西勇輝投手に2億円)、東北楽天が総額8億5,000万円(内訳は今江敏晃内野手に5,000万円、岸孝之投手に3億円、浅村栄斗内野手に5億円)におよぶ。つまり、この2球団の選手の年俸総額は、FAで獲得した選手たちによりチームの戦績と関係なく押し上げられているわけだ。

 そこで、両球団がFAで獲得した選手以外の選手たちに支払った年俸の総額を計算してみると、阪神が19億8,492万円(=25億8,492万円-6億円)で、楽天が17億6,572万円(=26億1,572万円-8億5,000万円)である。いずれも、FA宣言選手を1人も獲得していないカープが2019年に選手に支払った年俸総額23億7,106万円を大きく下回っている。

 こうして見ると、現在のカープは補強予算こそ相変わらず少ないが、以前よりは成績に見合った年俸を選手たちに払えるようになってはいるのだろう。

(つづく)
【片岡 健】

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(後)

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