ブランド再強化に取り組む、技術のオーレック(前)
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(株)オーレック 代表取締役社長 今村 健二 氏
「OREC」ブランドの歩行型・乗用型草刈機で、国内シェアNo.1を誇る農業機械メーカーの(株)オーレック。2018年10月には創業70周年を迎え、企業としてのリブランディングが進められている。同社はいかにして全国の農家から支持されたのか、そして、これから先どのようなかたちで農業を支えていくのか。
草刈機で国内トップシェア
――オーレック製品は、市場で高い支持を受けています。
今村 おかげさまで、農業現場で使用される歩行型・乗用型草刈機では、国内トップシェアです。「RABBIT MOWER(ラビット・モアー)」などの悪路にも対応した乗用型草刈機は業界初の製品で、とくに果樹園を営む農家の方々に非常に喜んでいただいております。
草刈機は、国内外のメーカーがそれぞれ製品を発表していますが、当時乗用型で、凸凹道でも不便なく使用できるものはありませんでした。「雨が降って地面がぬかるんでいる」「傾斜地にある」「切り株が点在している」――など、現場はまさにオフロード。まず走行すること自体が困難となります。この課題を解決することができれば、農家の方々の生産効率向上につながるとの思いから、オフロードにも対応した乗用型草刈機は誕生しました。
――歩行型草刈機よりも、スピーディーに作業を進められそうです。
今村 刈る対象が芝か雑草かで、作業負担も大きく変わります。草刈機に関しては、雑草相手の場合は刃の摩耗が激しくなる恐れがあります。使用者への負担でいうと、背の高い雑草を刈る場合、歩行型草刈機では身体への負荷が大きくなります。除草剤を使用するという方法もありますが、農産物や周辺環境への影響が懸念されることから、雑草だけ刈りたいという需要が尽きることはありません。
こうしたニーズに応えるかたちで、使用者が草刈機の後ろから付いていく耕運機スタイルのものや、オフロードにも対応した乗用型草刈機を開発してきました。これらの製品が市場から評価をいただけたからこそ、今日の成果があります。
――旺盛な開発の源になっているものは、何だと考えられますか。
今村 トランスミッションを自社開発できることは強みだと思います。これは、先代社長の時代から先行投資を行い、設備を整えてきた結果でもあります。相応の費用を要するからこそ、簡単に真似できることではありません。通常、トランスミッションは他社から購入し、それに合わせてパーツを製作、1つの製品として組み立てていきます。しかし、弊社は核となるトランスミッションを自社開発できるので、自由な発想でさまざまなバリエーションの製品開発が可能となり、製品の最適化を図ることもできます。
この強みを生かし、弊社は常に他社に先んじて新製品を市場に送り出すことで、着実にシェアの伸ばしてきたのです。
九州から関東市場への挑戦
――全国に販売網を構築する御社ですが、営業エリアの拡大には大変な苦労があったとお聞きしました。
今村 私は大学卒業後、1976年に入社しました。そのころ弊社の営業エリアは九州圏内のみで、本州・四国・北海道エリアはOEMで対応していました。私が任されたのは佐賀と長崎エリアでしたが、自分のなかで「このまま終わりたくない」という思いが募っていき、やがて大学時代を過ごした本州・関東圏を開拓したいという気持ちが強まっていきました。そこで私は社長に直談判し、佐賀と長崎を回りながら、月に1週間~10日間、栃木・群馬・埼玉などにも営業に行くようになったのです。
強い思いをもって臨んだ関東圏への営業でしたが、実績を上げることはできませんでした。せっかく契約が取れそうになっても「朝一できてくれ」といわれてしまうと、九州拠点という地理的な制約もあり「来月まで待ってくれませんか」といわざるを得ない状況になってしまう。すると当然、「そんなに待てない、そんなメーカーとは付き合えない」といわれてしまうのです。そこで一念発起し、80年夏に、埼玉県熊谷市に営業所を出しました。私は当時27歳で、結婚したばかりでしたが、故郷を離れて妻と2人、関東市場の開拓に本格的に取り組んだのです。
名前も聞いたことがない九州のメーカーの話など、誰もまともに聞いてはくれませんでしたが、営業所を出した以上、簡単に引き下がるわけにはいかないと、若手社員を1人呼び込み、私と2人で東関東・西関東に分かれて営業回りに励みました。最初の2年間売上はゼロ。転機が訪れたのは、営業所を出して3年目でした。
――きっかけは何だったのでしょうか。
今村 少しずつ契約をいただけるようになったのですが、当時は技術水準がまだ今ほど高くなかったので、不具合が発生することも少なくありませんでした。製品を販売する労力以上に、販売後の対応に追われる時間のほうが多かったほどです。しばらく、販売するために行ったのか、修理するために行ったのかわからない状態が続きましたが、これが良かったのです。
私はもともと設計者だったので、修理をしているうちに、製品の弱点を把握することができたのです。そのうちに他社製品と自社製品の違いはどこにあるのだろうと思い、作業中の農家の方にお願いするようになりました。「私にその草刈機を使わせてください、自分が全部草刈りしますので」と。
こうして草刈りをしながら、刃の長さやエンジンの回転数、どう駆動し一馬力でどのくらい刈れるのかに至るまで、他社製品を徹底的に調べ尽くしました。そして自社製品のデータと比較すると、数値的に劣っている部分が明らかになりました。また、実際に使用したことで、どのタイミングで体に負荷がかかるかなど、数値では見えてこない部分も知ることができました。
こうして集めた数値と体感で得た事実を数値に置き換え組み合わせることで、他メーカーをしのぐ水準の製品を生み出すことができたのです。
――そうして生まれた製品が、市場での支持を集めたのですね。
今村 小型軽量だけれど大型の製品と遜色ない性能を出せるのであれば、誰もがそれを選ぶでしょう。3年かかりましたが、売上は飛躍的に伸びました。この成功体験は福岡本社でも話題になり、勢いそのままに埼玉県大宮市に約200坪の土地を購入しました。こうして、関東の営業拠点は熊谷の田んぼのなかにポツンとあった一軒家から、大宮の3階建て新築ビルに代わりました。
2年間の試行錯誤があったからこそ、今があります。振り返れば、畦道用の草刈機「WING MOWER(ウイング・モアー)」、傾斜地向けの「SPIDER MOWER(スパイダー・モアー)」など、この2年間に、後に業界初となる製品のアイデアも生まれているんです。大学卒業後、設計者になるつもりで入社して、「営業をやれ」といわれたときには正直腹も立ちました。けれど、身をもって農家の方々の苦労を知れたこと、その苦労を少しでも軽減できるように、体験したことを製品に反映できたことは、営業をしていなければ得られなかった経験でした。
(つづく)
【代 源太朗】ORECに込められた思い
O…Originality(独自性)
R… Realization(実現性)
E… Essence(本質)
C… Challenge(挑戦)<information>
OREC green lab 福岡
所在地:福岡市中央区赤坂1-13-1
営業時間:午前10時~午後7時
定休日:日・月・祝日(ほか、年末年始・夏季休業)<Company Information>
代 表:今村 健二
所在地:福岡県八女郡広川町日吉548-22
創 業:1948年10月
設 立:1957年7月
売上高:(19/6)131億円
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