2024年03月29日( 金 )

中小企業が“主役”になれる時代がやってきた!(中)

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シンクタンク・ソフィアバンク 代表 藤沢 久美 氏

1300年前の奈良・平城京のほうが国際的だった?

 ――ダボス会議では世界の経営者が日本の高僧の話に耳を傾けたとも聞いています。そのようなすばらしい知恵がある日本なのに、今のお話は少し残念ですね。

 藤沢 私もダボス会議で、世界のトップ経営者たちが東大寺の北河原公敬長老と対話する席にご一緒したことがあります。世界のトップリーダーたちが、日本型経営に通じる哲学を求め、真剣な眼差しで質問している姿がとても印象的でした。

 日本人の国際性ということであれば、むしろ現代の日本人より、昔のほうがあったかも知れません。私は奈良の出身ですが、1300年前の平城京は国際都市でシルクロードの最終地点としても知られています。そこには僧侶達(僧侶という名の技術者も含む)が訪れました。その出身国は、唐(中国)、天竺(インド)、林邑(ベトナム)、波斯・胡国(イラン)、崑崙(インドシナ・インドネシア)におよんでいます。

 私はダボスの仲間(「ヤング・グローバル・リーダー」)を奈良に呼んだことがありますが、皆すごく喜んでくれました。

 ダボスに行って思うのですが、私を含めて日本人経営者の方の多くはあまり英語が得意ではありません。ダボスの会議場は、とてもオープンスペースでフランクに会話が楽しめるようになっています。自分のすぐ近くに、ビル・ゲイツなど世界の著名なリーダー・経営者がいます。普通に話せる環境にあるのですが、日本のリーダー・経営者の方はそのようになさっていないように思います。「世界から学んで日本を良くする」という視点に欠けているのではないかと、ダボスに行くと痛感します。

今求められているのは臨機応変のアジャイル型経営

 ――経営者像の話題に入ります。先生の近著に、これからの経営者・リーダー像ついて書かれた『最高のリーダーは何もしない』(ダイヤモンド社)があります。まずこの本を書かれた動機から教えていただけますか。

 藤沢 これはビジョナリーリーダーの話です。これからの経営者は「ビジョンベースで経営していかなければならない」ということです。今、世の中の風潮として、企業においては、社長がすばらしければ会社がよくなるとか、国においては、すごいリーダーが出てくれば、世の中がよくなる、と言われますが、現代はそういう時代ではないと私は思っています。

 今、求められているのは、リーダーがビジョンの提示とリスク管理に責任をもち、現場にある程度の権限を委譲し、現場で課題発見と課題解決を即座に行い、速いスピードで実践していく「アジャイル(臨機応変)型経営」です。

 そうでないと、ものすごく速いスピードで変化している世の中の流れについていけません。現場に最も近い人がアイデアを出していくことが必要で、そのアイデアを後ろから、支えていくリーダーが求められているのです。

新しい技術を中核においているかいないかで線引きを

 藤沢 私は日本全国の中小企業を20年近く追いかけています。日本の企業の99.7%は中小企業です。数が多いので、すばらしい会社もありますが、ダメな会社もあります。国の会議などに出ていつも思うのですが、中小企業に対する「中小企業は小さくて、弱くて、能力が低くてダメだ」という型通りの世の中の風潮、金融機関の評価、マスコミ報道などは、実態と大きく異なっています。

 私は毎月、全国で中小企業経営者の方々に対して講演を行っています。講演が終わった後は懇親会にも参加します。そこでは、私が講演でお話する最先端の内容(技術も含めて)に関して「今、やっています」「やろうとしています」という声を数多く聞きます。皆さま60代以上で70代、80代の経営者の方もたくさんおられます。年齢に関係なくとても積極的です。

 また、私はベンチャー企業と中小企業の間で線を引くことも嫌いです。創業時期とか経営者の年代で線を引いてはいけません。もし、大企業、中小企業、ベンチャー企業で線を唯一引けるとすれば「新しい技術を中核においているかいないか」の点だけです。

日進月歩で、中小企業にはチャンスが拡大しつつある

 ――とても勇気が出るお話です。ところで、今すばらしい会社もあるが、ダメな会社もあると言われました。では、すばらしい会社になるためにはどうしたらよいのでしょうか。

 藤沢 繰り返しになりますが、すばらしい会社になるために経営者がやるべきことは「ビジョンを提示すること、決めること、環境を整えること」の3つだけです。どの中小企業の経営者もこれを徹底的にやればよいのです。この3つをできない中小企業はありません。もちろん、経営者1人でできることではありません。しかし現在の幹部に人材が不足しているのであれば、外から戦略担当幹部を迎え入れるなど方法はいくらでもあります。ダメな会社は能力が決して低いわけではなく、「一歩踏み出すことができない」だけのことだと思っています。

 なぜ、このように申し上げるかについては理由があります。それは、今まさに日進月歩で中小企業にとってチャンスが拡大しつつあるからです。たとえば、従来であれば「中小企業には人が集まらない」と言われていました。しかし、RPA(Robotic Process Automation)の発達で、これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくはより高度な作業も、人間に変わって実施できるルールエンジンやAI、機械学習を含む認知技術を活用して、代行・代替することが可能になりました。今後、AIが進めば進むほど、会社の仕事の大部分がAIやロボットに置き換わるなかで、中小企業と大企業の差はなくなります。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
藤沢 久美(ふじさわ・くみ)

 大阪市立大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。99年、同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。現在、代表。07年には、ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出され、07年には、世界の課題を議論する「グローバルアジェンダカウンシル」のメンバーにも選出され世界40カ国以上を訪問。政府各省の審議委員、日本証券業協会やJリーグ等の公益理事といった公職に加え、静岡銀行や豊田通商など上場企業の社外取締役なども兼務。自身の起業経験を基に、NHK教育テレビ「21世紀ビジネス塾」のキャスターとして、全国の中小企業の取材を経験後、国内外の多くのリーダーとの交流や対談の機会に積極的に参画し、取材した企業は1000社を超える。現在、政官財の幅広いネットワークを生かし、官民連携のコーディネータとして活躍するほか、ネットラジオ「藤沢久美の社長Talk」のほか、書籍、雑誌、テレビ、各地での講演などを通して、リーダーのあり方や社会の課題を考えるヒントを発信している。

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