2024年04月19日( 金 )

【検証】「ゴーン国外脱出」~前後する二つの「陰謀」

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

はじめに

 国民は前後する二つの陰謀を見せられている。ただし、先行する陰謀について、ゴーンは「自分が不当な不正義の檻のなかに入れられたのは、検察と日産幹部の陰謀による」と主張者とその主張内容は明確であるが、一方、ゴーンが国外に脱出したことはゴーンと隠密作戦行動のプロ集団との陰謀であるとは誰が主張したのか、いつの間にかマスコミ報道では既成事実となっている。

 さて物には順序というものがある。ゴーンの主張する陰謀が真実であれば、ゴーンの国外脱出は不当な陰謀による身柄拘束から逃れるための正当防衛行為となる。陰謀でも何でもなくなる。

 日本国民は誰もゴーンの陰謀だとの主張には見向きもしないで、密出国罪という出国の際に必然的に発生する形式犯たる行政罰だけに注視して「犯罪行為を正当化するために日本の司法を『不正だ、不正だ』と主張するとは何事だ」と一斉に批判している。これは明らかに論理のすり替えである。ゴーンは何も軽微な行政管理法上の違反行為を正当化しているわけではない。不思議とある種の国民にはそのように聞こえるらしい。

 ゴーンの主張は論理一貫している。日本国民であれば、ゴーンの言い分を少しくらいは検討してみても何も犯罪者の肩をもつことにはならないと思うのだが、そのような人間がどこにも見えないことが不思議であるとともに、日本の将来が危ぶまれてしまう。

 実は、刑事司法の逮捕手続を幾分でも法律的に理解している者なら全員が、ゴーンの陰謀との主張は正しいことを知っている。ただ、日本人は他人のことは例え不当な犯罪行為であっても口を出さないというのが、日本の庶民が伝統的に構築してきた生活の知恵である。

 御上に逆らえば、問答無用の容赦のない弾圧を受けてきた歴史がそうさせた。現在も御上に逆らえばさまざまな逆風をうけるようである。それが、誰もわかっていても口にださない理由である。「義を見てせざるは勇無きなり」という箴言を高校生の時分に習った。今、この箴言は文字通り死語となってしまっている。こんな社会で、子孫に申し訳ないと思わないのだろうか。ささやかな抵抗を試みる次第である。

 ゴーンの逮捕劇が陰謀の存在を証明している。

 日産の代表権をもつ、取締役会で重要な役割をもつ2名の取締役が突然逮捕された。

 逮捕状は裁判官が一定の証拠や説明を司法官憲から受けて、犯罪事実の存在を一応確認して発布する。ゴーンとケリーの逮捕被疑事実は、最初は有価証券報告書重要事項虚偽記載罪である。裁判官はどのような証拠を見せられたのか、または、そのような証拠が存在すると疎明を受けたのか。ここまで来れば、もう陰謀はおわかりいただけたであろう。

 つまり、検察官は会社保有の会計資料を証拠として示すか内容の概略を疎明した。会社の所有物は会社の意思決定によって、検察に提供される。ゴーンとケリーは会社の意思決定機関である取締役会の重要な構成員である。つまり、検察は正式な会社の意思決定を経ず、違法な手段で証拠を入手した。無論、勝手に「証拠」を検察に提供した取締役らこそ、検察と陰謀を図ったとされる取締役らである。

 企業会計上の犯罪であるから、まず、会計資料が押収されなければならない。これがいつの間にか検察が入手していた。これだけで素人でも証拠収集が違法と理解できるだろう。

 この明らかな犯罪によって入手された「違法収集証拠」をあたかも合法的に入手したものと粉飾・偽装したのが、本件司法取引である。しかし、自称協力共犯者2名も「私物」を検察に任意提供したなら格別、会社所有の会社が管理する会計書類は一片たりとも、勝手に検察に提供することはできないし、検察もそれを知って受領することはできない。物理的な意味での書類も当然であるが、その内容を口頭ないし、その他の方法(複写、写真等)で渡すことも当然違法である。書類はその内容・情報が本質だからである。

 一方、検察は何らかの証拠を他で入手して、日産に対して、証拠書類等の捜索差押を強制捜査をすれば、それこそゴーンやケリーが一番最初に検察の動きを知ることになる。

 ゴーンとケリーがまったく知らない間に、彼らの逮捕状発布を根拠づける証拠は、陰謀のような違法な手段以外には入手できないことは誰の目にも明らかである。

 ゴーンは世界に向けて会社所有の会計資料が、謀反を企てた幹部社員と検察による陰謀犯罪によって、検察が入手したことを説明するだろう。そして検察が司法取引に関する証拠開示に一切応じない為に公判期日が延々と延期されてきた事実も一緒に世界に公表されることとなる。

 このように、簡単に説明でき、わかりやすい事実関係でさえ、マスコミは無視し、一方的にゴーンに対する犯罪者呼ばわりを続けている。

 産経新聞は<国民の9割がゴーンの会見での密出国の経緯説明に納得していない>と報道した。先にフランスの国民の7割がゴーンの国外脱出に理解を示したこととまったく対照的である。人間は人種が異なっても事物を論理的に考察する能力は同じである。先にフランス国民の7割がゴーンの国外脱出には理由があると考えていると報道されている事実を知って、今回、日本国民の9割がその反対の理解を示したと報道することによる、さまざまな誤解を生じることの責任を報道機関としてとることができるのか。

 産経新聞はその調査方法を明らかにするとともに、日本の国民の9割が、世界から信用されなくなる責任を取れるのか、と言いたい。無責任な世論操作も甚だしい。

 世論操作されているとも知らない日本国民は、産経新聞の報道を見て、「フランス国民は馬鹿だな」と思うかもしれない。フランス国民に対するあからさまな侮辱報道であるとフランスの記者から抗議を受けて記事を訂正するような恥さらしの醜態を演じることがないことを祈るのみである。

 矛盾の事実はどちらかが虚偽事実である。これは論理的判断であり誰も否定できない。

 産経新聞は、フランスの報道機関に堂々と喧嘩を売ったことになる。大丈夫か。

【凡学 一生】

▼関連リンク
・【検証】「ゴーン国外脱出」~日本人には理解されない密出国罪の本当の意味
・【検証】「ゴーン裁判」の行方
・【検証】ゴーン逃亡~「残酷司法」から「国権濫用司法」へ
・【徹底検証】東京地検・次席検事による「ゴーン記者会見」へのコメント
・カルロス・ゴーン記者会見~森法務大臣によるコメントについて

関連記事