2024年04月20日( 土 )

ソフトパワー戦争に突入したアメリカとイラン 日本は仲介役をはたせるのか?(4)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

安倍政権の「平和外交」に失望感

 周りの側近や使用人からも愛想をつかされているようだが、ヨーロッパの指導者からは背を向けられる事態に直面しているのが今のトランプ大統領である。一方、いち早くトランプ大統領の心をつかみ、「最も気の合う、信頼できる関係を築いた」と自画自賛する安倍首相については、イラン問題をめぐって、当初「イランとの仲介役を頼まれた」とトランプ大統領との関係を自慢していたが、そのトランプ大統領からは袖にされてしまったようだ。

 というのも、自らイランを訪問し、ハメネイ師との会談に臨み、その後、ロウハニ大統領を日本に招き、アメリカとの対話による緊張緩和を促したものの、まったく成果が得られなかった。イランの求める「原油輸入の再開や新油田開発への資金的援助」には安倍首相は明言を避けたため、合意が得られず、イラン側の失望を招いただけであった。

 これといった切り札もなく、トランプ大統領の意を受けてのメッセンジャー役というのでは当然の結果といえよう。結局、アメリカ政府も「安倍首相に期待しても無理だ」と判断したようだ。これでは、日米関係もイラン問題で大きく後退しかねない。

 イギリスから独立したイランを最初に助けた「海賊とよばれた男」出光佐三を生んだ日本への信頼と期待の大きいイランであるが、安倍政権の口先外交には愛想をつかしたに違いない。2011年まで駐日イラン大使を務め、その後、イラン外務省で次官となり、イラン核合意の責任者となったアラグチ博士も来日し、さまざまな提案をもってきているが、日本政府の煮え切らない態度に失望感を露わにしている。大の親日家であるアラグチ次官の熱い思いを真摯に受け止めない安倍政権には「平和外交」を口にする資格はないだろう。

 他方、トランプ大統領がイランとの核合意を一方的に破棄し、イランとの戦争も辞さない強硬姿勢を見せたため、ヨーロッパの国々はアメリカと一線を画す対応を取り始めている。何しろ、人のいうことを聞かず、「トランプ・ワールドには3種類の人間しかいない」と、豪語するトランプ大統領である。では「3種類」とは、どういうことか?

 「第1は自分と身内。第2は部下や使用人。第3は敵」。まさに「トランプ・ファースト」だ。トランプ大統領は自国の諜報機関も信用していない。CIAやNSAの専門家を前に、「学校に戻って、勉強をし直せ!」とバカにする発言を繰り返しているほどだ。

 そんな身勝手なアメリカ大統領に対し、ヨーロッパの指導者たちは一斉に背を向け始めている。とくに、ソレイマニ司令官の暗殺に関しては、これまでになく足並みをそろえて、アメリカの横暴さに反発をあからさまにした。いわば、「イランも問題だが、トランプはもっと問題だ」という共通認識に至ったわけだ。

 そのため、ヨーロッパ連合(EU)のボレル外相はイランのザリフ外相をブリュッセルに招き、ソレイマニ司令官暗殺後の対応を協議した。実は、イラン問題を討議する国連の場に出向こうとしたザリフ外相に対して、アメリカはビザの発給を拒否したため、イランの外相はニューヨークを訪問できなかった。トランプ政権の対応は極めて自己中としか言いようがない。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

(3)
(5)

関連キーワード

関連記事