2024年04月20日( 土 )

MCTやオメガ3を適量摂取 健康素材として急浮上!(前)

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 毎年3月、米アナハイムで開催される世界最大級の機能性食品の展示会「Natural Products Expo」。2019年は2つの大きな話題が席巻した。1つは昨年アメリカで合法化された大麻の成分「CBD(カンナビジオール:Cannabidiol)」(大麻の陶酔成分として有名なTHC:Tetrahydrocannabinolとは別の成分)。そしてもう1つが「ケトン食」。このケトン食で推奨される脂肪が中鎖脂肪酸だ。

摂取エネルギーの大半を脂肪で摂る「ケトン食」

 ケトン食は、もともとはてんかんなどに対する食事療法の1つで、摂取エネルギーの60~90%を脂肪で摂るというもの。糖・炭水化物の摂取を極端に減らすことにより、体内で通常エネルギー源として使われる糖を枯渇させ、代わりに脂肪が分解されて生じる「ケトン体」をエネルギー源として利用する。

 もちろん、エネルギーの90%を脂肪で摂取するという極端な方法は医師の管理下で、慎重に行われる必要がある。一方で、1日の摂取目標カロリーの20~30%が目安といわれる脂肪の摂取割合を10~20%程度引き上げて、糖質からの摂取量を同量カットするといった軽めの「ケトン食」が、健康維持や体重コントロールに有効であるということで人気が爆発した。

 そして、このケトン食で推奨される脂肪が「中鎖脂肪酸(MCT:Medium Chain Triglcerides)」。MCTはリパーゼで分解されやすいため、胃のなかでほとんどが脂肪酸とグリセリンに分解される。そして、小腸絨毛の血管から吸収されて門脈を通じて肝臓に運ばれてすぐにエネルギーに変わるため、体脂肪として蓄積されにくいのが特徴である。

 ちなみに、多くの脂肪は長鎖脂肪酸のかたちをとっており、こちらは分解が遅いためリンパ管経由で吸収されて鎖骨下静脈から血管内に入り、それから全身へと運ばれるため体脂肪になりやすい。このMCTは手術後の消化能力が弱った患者への栄養補給として、長年医療現場で使われてきた歴史がある。

 このMCTが多く含まれているのがココナツオイルやパームオイルだ。ココナツオイルと聞くと、3~4年前のブームを思い出されるかもしれない。確かにココナツオイルにはMCTが含まれるものの、割合としては約13.5%程度。ほかには牛乳や乳製品、そして母乳にも含まれている。

 ココナツオイルには長鎖脂肪酸もそれなりに含まれている。しかも、これらは飽和脂肪酸である為、アメリカ心臓協会は2017年に「LDLコレステロール値を危険なレベルにまで引き上げてしまう」という理由から、ココナツオイルの摂取を控えるよう呼びかけた。そのため、熱していたココナツオイルのブームが終息したという経緯がある。

 しかし、この一連の出来事はMCT自体にはまったく関係のない話であり、ここで新たに市場に登場してきたのが「MCTオイル」といわれる中鎖脂肪酸だけを100%抽出したオイルだ。2016年にはMCTオイルを含むケトン食の摂取により、認知症でない高齢者の認知機能が向上する可能性を示唆した研究も発表されている。

脂肪は健康の敵ではない!大事なのは「質」と「量」

2014年6月、米誌「タイム」は、良質の脂質は健康維持のために積極的に摂取すべきという特集を組んだ
2014年6月、米誌「タイム」は、良質の脂質は健康維持のために積極的に摂取すべきという特集を組んだ
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」において、以前のようなコレステロールの摂取制限目標値は撤廃されている
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」において、以前のようなコレステロールの摂取制限目標値は撤廃されている

 

 これには伏線があった。2014年6月に発売された米誌「タイム」の特集「Eat Butter」だ。アメリカの食生活のなかで長い間にわたって健康の敵とされてきた脂肪酸やコレステロール等の脂質は健康の敵ではなく、逆に「良質の脂質」は健康維持のために積極的に摂取すべきであるといった内容の特集記事だ。

 実は、アメリカでは1980年代から30年間にわたって食事に占める脂質の割合が落ち続けているのにもかかわらず肥満患者が急増しており、さらに2型糖尿病の有病率も1980年から2012年にかけて166%と増加、推定8,600万人が糖尿病予備軍となっていた。

 アメリカではすでに、2010年ごろを境に脂肪と肥満の関係に否定的な論文が出だしていた。その結果、2015年に出された「アメリカ人のための食生活指針(Dietary guidelines for Americans)」草案でも、コレステロールに関して、それまで1日300mg以下に制限されていた推奨量が撤廃された。

 さらに、日本でも「日本人の食事摂取基準(2015年版)」において、以前のようなコレステロールの摂取制限目標値は撤廃されている。つまり、脂肪の摂取は、健康維持にとって制限すべきものではなく、あくまでも「質」と「量」の問題であるとうことだ。

 

(つづく)
【継田 治生】

(後)

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