2024年04月19日( 金 )

【検証】「ゴーン国外脱出」~人質司法の後に来るもの「無限裁判」(前)

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 検察は人質司法に失敗した。自白の獲得に失敗して有力な証拠がない状態になった。

 この後に来るのは当然、無限裁判である。

 その兆しはすでに現れていた。逮捕起訴時から1年2カ月にもなるのに第一回公判期日さえ指定されていない。報道によれば、裁判所はさらに第一回公判期日を1年後の来春とする打診を弁護団にしていたという。

 そんな折、ゴーンの国外脱出事件が起こった。裁判所はこれを奇貨として、間違いなく裁判の無期延期か公訴棄却をする。ともに刑事訴訟法には明文の規定がなく、むしろ明文の規定の趣旨に反する(後述)。

 事実、すでに、日産法人(これは有罪を自認している)、ゴーン、ケリーの3つに裁判を分離した。ゴーン裁判はいったん停止し、ケリーの裁判は進行させるために公判期日を指定することになる。しかし、あえて簡単には決定しない。今まで以上に難癖をつける。それこそ、その内ケリーと司法取引を行う可能性すらでてきた。ゴーンがいなくなった今、長年かけて裁判するより、有罪を認めて短期の刑に服したほうがよいと説得されることである。現実には執行猶予判決となる。

 ケリーには持病の悪化もあり、ゴーンと異なり重い特別背任罪での訴追も受けていない。後述するように、無罪の判決を得るのに日本の裁判では現実には10年以上かかる。この現実の「不当な事実」の持つ威力は絶大である。ケリーが司法取引をして早期に日本脱出を選択しても誰も非難できない(ただし、日本の刑事訴訟法には自己利益型の司法取引法はないから、事実上といえば体裁がいいが、ヤミの水面下の司法取引の話となる。国民は、ケリーが犯罪事実を争わなくて、有罪を自白しても、事件の本質を見失わないようにしなければならない。つまり、ケリーの公判期日もこの談合が成立して後に決定公表されることになると思われる)。

 上記の刑事訴訟法の御都合違法解釈が実行されれば2件目の違法解釈となる。具体的に2件の違法解釈を以下に説明する。

 1件目は公訴時効に関する刑訴法255条1項前段の「犯人が国外にいる場合」の意義を単独に時効停止事由とした白山丸事件判決である。明らかな外国人差別判例でもある。

 2件目が今回で、刑訴法273条2項の公判期日指定における被告人出頭規定・同284条の出頭免除規定・同278条及び314条2項の手続停止規定・同339条の公訴棄却規定の全趣旨に反することになる。

 これらの条文の全趣旨を簡単にいえば「弁護人が選任されていれば、被告人が在廷しなくとも公判手続きを進行させるにはまったく支障がない」ということである。これは同じ要件事実の存否とその法律効果の宣言手続である民事裁判でも明らかなように、代理人弁護士が選任されていれば、原告・被告本人の不在廷は裁判の進行には支障はない。原告が海外に在住しても当然、裁判は遂行できる。刑事裁判と民事裁判の違いは、原告の代理人が検察官で、被告の代理人が被告人弁護人というところである。名称と私人公人かの違いだけで、構造はまったく同一である。

 ただ、証人尋問の施行と判決の直接言い渡しが不可能となる。証人尋問の不能は被告人が全尋問に黙秘権を行使した場合と同視できるから、裁判所はそのように扱えばよい。判決宣告は本人に到達すればよいから在廷にこだわる意味はない。弁護人経由であっても問題ない。

 問題なのは有罪判決の場合の、とくに確定後の行刑(刑の執行)の問題である。行刑が不能だからといって有罪無罪を確定する判決手続まで停止・放棄してしまうことは本末転倒そのものである。

 これは民事訴訟で、判決後の強制執行手続きが不能だからと言って、判決手続をしないことと同じであるから、いかに不合理で、理由がないかは明らかである。

(つづく)
【凡学 一生】

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(後)

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