2024年03月29日( 金 )

同時並行で進める復興戦略 「生活再建」と「新しいまちづくり」(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

熊本市長 大西 一史 氏

 熊本地震から4年目を迎えた。2019年10月には熊本城大天守の外観修復完了にともない、特別公開がスタート。熊本のシンボルの復活は内外に熊本の復興が進んでいることを印象づけた。19年9月には、商業施設「SAKURA MACHI Kumamoto」が開業したほか、JR熊本駅周辺でも21年春の開業に向けて、アミュプラザなどの整備が進んでいる。いまだ仮設住宅暮らしの市民は残されているが、熊本市は復旧から復興に向けて新たなまちづくりを加速させている。2020年に2期7年目を迎える大西一史・熊本市長にとって、震災以降の4年間はどう映っているのか。今後のまちづくりへの思いを含め、話を聞いた。

20年は転換の年「復旧から復興」へ

 ――熊本地震からの復旧・復興の道のりを、どう見られていますか。

熊本市長 大西 一史 氏
熊本市長 大西 一史 氏

 大西市長 熊本地震発災後、全国から多くのご支援をいただきました。そのおかげで、今の熊本市があります。皆さまに、改めて深く感謝申し上げます。

 そのご支援に応えるためにも、「元気の良い熊本市」をつくっていきたいと考えています。熊本市はこれまで、「市民の暮らしを震災前に戻す」ことを目標に、インフラを含め、復旧を進めてきました。

 発災後、ピーク時には1万1,000世帯以上の方々が仮設住宅などにお住まいでした。熊本市としては、すべての被災者の方に1日も早く恒久的な住まいに移っていただくため、全力で取り組んできました。その結果、仮設住宅など入居世帯数は、2019年11月末時点で947世帯まで減少し、全体の99%以上の世帯で新たな住まいの見通しが立っています。災害公営住宅も19年12月までにすべて完成しました。2020年は、いよいよ「復旧から復興」へと転換する節目の年になると見ています。

「賑わい」と「防災」意識したまちづくり

 ――JR熊本駅周辺や桜町では、再開発が進んでいます。

 大西 熊本市は九州の中心部に位置しており、明治以降、行政機関が集積した“官のまち”として発展してきました。ところが、時代が昭和から平成、令和と変わるなかで、そのまちの有り様が変わってきています。とくに九州新幹線が開業し、熊本市から福岡市まで約30分、鹿児島市まで約40分で行けるようになりました。九州および西日本の人の流れが変わったなかで、九州の拠点としての熊本市の役割はますます重要性を増しています。

 熊本市がその役割を担ううえで、熊本駅周辺地区、桜町地区などの市街地中心部の再開発は大きな意味合いをもってきます。桜町地区は、震災前から施設の老朽化を始め、いろいろなものの見直しを進めていましたし、熊本駅周辺でも新幹線開業に向け、再開発などの取り組みを検討していました。その最中に、震災が発生しました。再開発によって、まちの中心地や陸の玄関口を賑やかにして、市の経済を牽引していくことも重要ですが、それと同時に、多くの人が集まる場所に防災拠点機能をもたせることも重要だと考えています。

 19年9月に中核施設「SAKURA MACHI Kumamoto」が開業した桜町再開発ビルでは、1万1,000人を3日間避難できる防災拠点機能をもたせています。熊本駅でも、駅前広場の一部を避難場所などの防災拠点として利用することにしています。熊本市では、いわゆる「より良い復興(ビルド・バック・ベター)」の考え方に基づき、「賑わい」と「防災」を強く意識したまちづくりを進めているところです。

 ――ソフト面はいかがですか。

 大西 熊本市のまちづくりでは、「地域主義」を基本に入れています。これは「地域で固まる」ことではなく、「地域の共助」を目指すものです。近年、若者の流出が全国的な課題となっています。熊本市内には11の大学があり、比較的若者の割合が高い都市ですが、市内には就職先が少なく、若者は首都圏などの都市部に出ていく傾向にあり、これが熊本市の人口減少の1つの要因になっています。まちづくりを進めるうえで、雇用、就労の場をつくることは非常に重要です。

 若者にとって、熊本市を「働けるまち」、かつ「生活しやすいまち」にする必要があると考えています。若者にとって「生活しやすいまち」になれば、高齢の方々にとっても「住みやすいまち」になるはずです。「わざわざ東京に行かなくても、熊本がちょうど良い」と思えるまちづくりを進めていきます。

 熊本地震で明らかになったことは、行政には限界があるということです。地震直後、すべての被災者に水や食料を届けられませんでした。これが実態なんです。すべての市民の生活を守るには、行政だけではなく、市民の「自助」、そして地域のコミュニティがしっかり機能することによる「共助」が不可欠だと考えています。実際の地震でも、コミュニティがしっかりしている地域ほど、配給された水や食料がすべてに行きわたり、ダメージが小さかったんです。このことを市民の皆さまに知っていただいたうえで、自助、共助で備えていただき、さらに行政が1人でも多くの生活を支えていくという姿勢で、今後の市政運営を行っていく考えです。

 16年10月に策定した「熊本市震災復興計画」は、19年度末に終了を迎えます。それから先は、震災を教訓とした災害に強いまちをつくっていく必要があります。暮らしやすいまちには、「安全・安心」が最も大事です。そしてそのまちは、高齢者に優しいまちであり、若者にとっても魅力的なまちでなければいけません。

(つづく)
【大石 恭正】

<プロフィール>
大西 一史(おおにし・かずふみ)

 1967年12月、熊本市生まれ。92年に日本大学文理学部心理学科卒業後、日商岩井メカトロニクス(株)に入社し、94年に退職。内閣官房副長官秘書を経て、97年に熊本県議に就任(5期)。2014年12月に熊本市長に就任し、現在2期目。14年、九州大学大学院法学府博士後期課程単位取得退学。熊本地震をきっかけに「ツイッター市長」としても知られる。趣味は音楽鑑賞。

(後)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事