2024年03月30日( 土 )

本当に20年で終わるのか?熊本城の復旧工事(後)

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課題の見学通路は20年間「仮設」へ

特別見学道路工事
特別見学道路工事

 日曜日・祝日限定とはいえ、「復旧工事中の熊本城を見学できる」という取り組みはユニークだ。熊本市によれば、このアイデアは、熊本城復旧基本計画策定委員会の委員から出たという。「貴重な復旧の過程が、誰の目にも触れないのはもったいない」というわけだ。復旧過程が見学できれば、市民なども喜ぶし、入場料も取れる。第1弾の特別公開は、実質的に天守閣の外観を見学するもので、工事車両用ルートを見学ルートとして活用することができた。当然、関係機関の了承を得てルートの区画や安全対策を行ったが、そのために新たなルートを設けるといった特別な施策を講じる必要はなかった。

 ところが、第2弾の特別公開はそうはいかない。第1弾のルートが二の丸広場から西出丸、平左衛門丸を抜け、天守閣前広場に抜けるのに対し、第2弾では、備前堀北側から飯田丸を通り、本丸御殿の闇がり通路を抜け、天守閣前広場に至る見学専用のルートになる。ルートはループ状になっており、工事のない日曜・祝日は回遊できるほか、建造物の上や石垣の真横から見学できるのが第2弾ルートのウリだ。しかし、これを実現するためには、いくつかのハードルがあった。

 その1つが、文化庁の許可だった。特別史跡である熊本城内に「見学通路」という“異物”を設置することは、基本的にはNGだからだ。もう1つは、工事への影響をどう避けるか。見学ルートのために工事用車両の通行を妨げては、本末転倒になる。文化庁の許可は、20年間の仮設通路とすることでクリアした。この場合の仮設とは、通路構造物を「簡素なつくり」にすることではなく、「基礎を打たず、城内に据え置くかたちで原形復旧可能である」ことを意味する。現在整備中の通路自体は、恒久的な使用にも耐える構造だ。20年後の撤去を前提とすることで、文化庁の許可を得たカタチだ。通路の延長は約350m、幅は約4m。総事業費は約17億円で、新設工事は19年3月から始まっている。

 基礎を打たないとはいえ、地下に遺構が残る可能性のある史跡内での作業では、地面を掘ることは基本的に避ける必要がある。重機などを移動する場合は、鉄板や砂利などを敷くほか、クレーンには、カウンターウエイトを搭載するなど、地面への負荷を極力減らす工夫が講じられている。電気などのケーブルも埋設できないため、地上への露出を基本としている。工事への影響を避けるための方策は、通路の高架化だ。通路の高さを6mに設定し、通路下を工事用車両などが行き来できるようにした。当然杭などは打てないが、置き基礎にすることで建築基準法を満たし、耐震性も確保している。

本格化を控える重文・石垣の復旧

石置き場
石置き場

 熊本城には天守閣を囲む本丸地区を中心に、長塀や櫓など13の重要文化財建造物がある。すべてが江戸期の姿を今もとどめているが、地震によりそのすべてが何らかの被害を受けた。なかでも、北十八間櫓や東十八間櫓は、石垣もろとも倒壊した。これらの復旧の進捗は、19年12月時点で6棟が解体済みで、1棟が解体作業中、6棟が耐震診断・補強案作成中だが、復旧作業に着手済みなのは、長塀だけだ。

 重要文化財建造物の復旧で解体を要する場合は、基本的にはすべての部材を一度解体するが、欠けた部材などは新たな部材で繕いを行ったうえで、極力元通りに組み上げる必要がある。金物やプレートによる耐震補強を除き、鉄筋やダンパーなどの異物による補強はご法度だ。重要文化財建造物の部材は、城内にプレハブの倉庫を設置して保管している。ただし一口に保管といっても、部材がそれぞれ歴史的価値をもつものだけに、シロアリ対策など十分な配慮が必要になる。

 熊本城内の石垣の被災は、面積にして約2万3,600m2(城内石垣総面積の約3割)、54カ所。積み直しなどの修復が必要な石垣の数は、最大約10万個に上るといわれる。復旧の対象となる石垣のなかには江戸期に積まれた石垣もあり、修復には専門家の意見を聞きながら慎重に作業を進めていく必要があるが、その作業は一筋縄ではいかない。

 崩落した石垣は、城内の石置き場に仮置されている。それぞれの石には、どの部分の石かを示すナンバリングがなされている。たとえば、「H456-2」というナンバーの石は、本丸の456番の石垣面で崩落した石を表す。崩壊により割れた石は、粉々に砕けたものを除き、基本的には元通り接合したうえで、石垣として元通り積み直すこととなる。

 たとえば、崩壊は免れたものの、外に向かってハラミが生じた江戸期の石垣がある。この修復には、まず石垣を解体する必要があるわけだが、重機を使うと、石を損傷するリスクがあるため、職人による手作業が基本となる。無事解体して元通り積み直す際にも、慎重に慎重を重ねた作業が要求されるのだ。

 さらに厄介なのが、新たに積み上げた石垣の耐震性である。石垣の間に鉄筋などの補強部材を入れることはできないのだ。仮に、往時と同じ位置に寸分違わず石を積み上げたとしても、再び地震が起きれば崩壊するリスクがつきまとう。この点、熊本城総合事務所の職員は「専門家などと1つひとつ協議を重ねながら、解決策を見出していくしかない」と話す。

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 天守閣に関しては、予定通り大天守の外観復旧に漕ぎ着けることができた。だが、石垣や重要文化財建造物の復旧については、量的にも質的にも天守閣と同じ手は使えない状況にある。復旧作業の手順や方法が手探りなのに加え、調査結果によっては、作業をストップせざるを得ないリスクも想定される。それを考えれば、20年という旧基本計画の期間は、決して長くはない。むしろ、不確定要素が多いなか、「本当に20年で終わるのか」という見方が実態に即している。熊本城完全復旧の正念場はこれからだ。

(了)
【大石 恭正】

熊本城内にある国指定重要文化財建造物
(1)宇土櫓、(2)田子櫓、(3)七間櫓、(4)十四間櫓、(5)四間櫓、(6)源之進櫓、(7)東十八間櫓、(8)北十八間櫓、(9)五間櫓、(10)不開門、(11)平櫓、(12)長塀、(13)監物櫓

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