2024年04月19日( 金 )

神奈川県知事肝いりで推進!「人生100歳時代の設計図」(後)

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 100歳まで生きることを前提にどういう人生を送るか――。高齢化が進む日本では、会社員がリタイア後、40年近く、老後、余生を送るという時代は過去のものとなりつつある。そんな時代を見越して、「人生100歳時代の設計図」という政策に取り組んでいるのが神奈川県である。充実した人生を送るためには、人生の設計図を描くことが大切だということを県民に気づいてもらおうと、機会づくり、場づくりに取り組んでいる。

セカンドライフのための企業内研修を2社で実施

神奈川県政策局未来創生課長 杉山 力也 氏
神奈川県政策局未来創生課長 杉山 力也 氏

 第二部会の「生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」では、リタイア後の「シニアのセカンドライフの空洞化」がテーマである。

 人生100歳時代では、リタイアしてからスムーズにセカンドキャリア、あるいは新たな生活ステージに移行できるかがポイントとなる。

 中高齢層を対象にリタイアメント研修が行われているが、お金、社会保険、健康などが中心で、能力開発やキャリアデザインという視点が欠けていることが多い。そこで、セカンドキャリアとしてどのような選択肢があるのかを明確にして、座学、演習、キャリアに移行する研修を実施し、マルチステージの選択肢を知り、そのステージに移行するために必要なノウハウやスキルを得られるようにするのである。

 マルチステージは、「起業する」「自宅で働く」「NPO や社団を立ち上げる」「協同労働に参加する」、あるいは「農業を始めたい」「介護の仕事をしたい」「観光ガイドになりたい」「英語を生かしたい」「ウェブ 関係で何かしたい」などさまざまで、ステージも多様になる。これらを整理し、目指すステージへの円滑な移行方法を築く参考にしてもらう。

 2018年度、「生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」では、現役世代からの社会参加促進を目指すため、人生設計について考える「きっかけ」を与えることを目的とした新たな「企業内研修プログラム」をモデル企業で実施した。

 企業内プログラムは、県内企業2社を選定し、全体説明会、座学、フィールドワークなどを行った。参加者のなかには「地域活動への参加を考えてみようと思った」という声や、「面白い取り組みであったため、今後もまた実施してみたい」という参加企業もあったという。今後は、企業内研修プログラムを実施する企業をさらに増やしていくとしている。

シニア向けプロジェクト、プログラミング講座を実施

 第三部会の「ご近所ラボプロジェクト」では、地域とのかかわりが希薄なシニアを地域コミュニティに組み込むため、日常生活圏において趣味や好奇心に訴えかける講座を仕掛け、講座を通して緩やかな社会参加へとつなげていくことを目指している。

 公民館や市民活動センター、生涯学習、サロンなどと異なり、今まで関わりのなかった高齢者を待つのではなく、こちらからコンビニエンスストアやショッピングモール、ホームセンター、カフェなどに出向く。こうした場所を活用し、たとえば高齢男性をターゲットにイベントを開くのである。

 2018年度には、横浜市都筑区のショッピングセンターなどで全5回のプログラミング講座を実施した。「同じ思いをもった方々とつながることができ、またいろいろな助言やアイデアを得ることができた」「地域でプログラミングサークルをつくりたいと思った」といった参加者の声もあったという。

気づいてもらうための機会づくり、場づくり

 こうした3つのプロジェクト以外にも、さまざまな取り組みを開始している。

 たとえば、ウェブサイト「かながわ人生100歳時代ポータル」を開設。生涯学習などの学びの情報と、各種ボランタリーなどの活動の情報を、主体や地域をまたいで総合的に提供するとともに、個人や企業などのロールモデルを紹介している。

 また2019年度からは「この指とまれプロジェクト」に取り組んでいる。かながわ人生100歳時代ネットワークのメンバーが、社会・地域・県民に貢献するプログラムを自発的に企画・提案し、実施していくというものである。

 さらに、モデル事業として、放置されたみかん農園を再生するプロジェクトを関東学院大学・NPO・市町村などが連携して実施した。活動を知ったシニアの新たな参加により担い手が増加するとともに、大学生とシニアの多世代交流を促進。みかん農園の活動を維持するための改善策を大学生が提案したという。

 このほか、大学と連携し、定年前の人を対象に活動の場につながるように、人生100歳時代セミナーを開催した。現役世代から社会参加することの大切さを知ってもらうフォーラムを開催したり、大学生が人生100歳時代の設計図を考える機会を提供するためのワークショップを5大学で実施したりしている。

 杉山氏は「県ができることは限られている。機会づくり、場づくりを通して、気づきのきっかけをつくることが県の役割。最終的には自走化していくのが目標」と話す。神奈川県の取り組みは、未来の社会の姿そのものを見据えたものといえる。だが、100歳の人生設計図を描くのはあくまでも1人ひとり。県が与えるものではない。それに気づいてもらうきっかけづくりをすることに県は取り組んでいる。

(了) 
【本城 優作】

■かながわ人生100歳時代ネットワーク

構成員(83団体・有識者3名)2019年10月10日現在

●有識者
牧野 篤(東京大学大学院教育学研究科教授、東京大学高齢社会総合研究機構副機構長)
前田 展弘(東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員、ニッセイ基礎研究所主任研究員)
澤岡 詩野(ダイヤ高齢社会研究財団主任研究員)

●大学
東海大学、横浜国立大学、神奈川大学、関東学院大学、横浜市立大学、松蔭大学、県立保健福祉大学、昭和音楽大学、星槎大学、横浜商科大学、昭和大学、横浜薬科大学、東京都市大学、相模女子大学、相模女子大学短期大学部

●企業
第一生命保険、横浜銀行、大塚製薬、タウンニュース社、NTTドコモ、東急不動産R&Dセンター、日本生命保険、オイレス工業、アズビル、ソフトバンク、Peatix Japan

●NPO
ソーシャルコーディネートかながわ、NPOサポートちがさき、YUVEC、藤沢市民活動推進機構、さがみはら市民会議、YMCAコミュニティサポート、I Love つづき、シニアネットワークおだわら&あしがら、鎌倉市市民活動センター運営会議、横浜移動サービス協議会、湘南スタイル、若葉台、若葉台スポーツ・文化クラブ、湘南ふじさわシニアネット、ホームスクーリングで輝くみらいタウンプロジェクト、学習サークルBE-GLOBAL、スーリールファム

●団体
神奈川県社会福祉協議会、神奈川県住宅供給公社、神奈川県経営者協会、神奈川県商工会議所連合会、神奈川県中小企業団体中央会、神奈川県商工会連合会、神奈川県シルバー人材センター連合会、プラチナ構想ネットワーク、UR都市機構、神奈川県中小企業家同友会、茅ケ崎市まちぢから協議会連絡会・12地区協議会・1地区連合会、生活協同組合パルシステム神奈川ゆめコープ、一般社団法人アイオーシニアズジャパン

●行政
県、横浜市、相模原市、横須賀市、藤沢市、小田原市、茅ケ崎市、大和市、綾瀬市、三浦市、逗子市、湯河原町、寒川町、神奈川労働局

(中)

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