2024年03月29日( 金 )

国土交通省 指定確認検査機関9社を処分!~事実はドラマより奇なり!

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 火曜夜9時から「10の秘密」というドラマ(フジテレビ系、カンテレ制作)が放送されている。ドラマの前半では、向井理演じる主人公の建築確認検査機関の検査員・白河圭太が住宅会社から金銭を受け取り、検査の便宜を図っていたことが発覚し、退職に追い込まれ、お金に困った主人公は施工の不正をネタに大手ゼネコンを脅迫するというストーリーだった。

 ゼネコンによる施工不正は、鉄骨鉄筋コンクリート造の施工不正というものであり、これまでNetIBNewsで報じてきた豊洲市場における日建設計の偽装や福岡県久留米市のマンションにおける偽装(施工は鹿島建設)などと似通ったものがある。

 確認検査機関の検査員の不正はドラマの世界だけではない。現実に不正が明らかとなり、国土交通省は2月14日付けで指定確認検査機関「AI建築検査センター」(東京都町田市)を4カ月20日間の業務停止処分とした。

 同社の役員は特定の住宅会社から金銭を受け取り申請書類の代筆などの便宜を計っていた。この役員については、「住宅会社の社長印を預かり、通常1週間ほど要する審査を即日で通していた」などの証言もあり、受け取っていた金銭は数百万円に上るという。

 同日付でほかに8社の指定確認検査機関に対しても業務停止や監督処分が発表された。

AI確認検査センター(東京都町田市):「業務停止」
ビューローベリタスジャパン(神奈川県横浜市):「業務停止」
国際確認検査センター(東京都中央区):「業務停止」
富士建築センター(神奈川県川崎市):「業務停止」
アウェイ建築評価ネット(東京都新宿区):「業務停止」
J建築検査センター(東京都渋谷区):「監督処分」
日本建築総合試験所(大阪府吹田市):「監督処分」
ハウスプラス確認検査(東京都港区):「監督処分」
西日本住宅評価センター(大阪市):「監督処分」

 建築確認検査業務は、以前は公共団体の建築主事の業務であったが、建築確認の迅速化や違反建築物への行政対応の充実を目指した建築基準法改正により2000年より民間の機関に開放された。指定を受けた確認検査機関は建築主事と同等の権限をもっており、厳格な審査や検査を義務付けられていることはいうまでもない。

 最も厳しい4カ月20日間の業務停止処分を受けたAI建築検査センターは、申請者が行うべき確認申請書類の補正や押印を同社の役員が代行していた。また、同社の代表者の親族が設計を行った建築物の建築確認や検査を同社が実施していた。

 民間の指定確認検査機関は、行政に代わる強い権限を有しているだけに、中立性を保つよう建築基準法その他の法令により厳しく規制されている。確認検査機関と関係の深い者(役員が同族など)からの確認申請を受けることはできない。ましてやAI建築検査センターの役員が行っていた「申請書類の補正の代行・押印」など言語道断である。

 AI建築検査センターのサイトには、下記の企業理念が堂々と掲げられている。

企業理念
『安心・安全』がアイコトバ。
安心・安全を実感できる社会を実現するために、適格な確認検査、質の高いサービスの提供、健全な組織運営等を実践する確認検査機関を創設し、次世代の社員に高い技術力を継承しながら、社員による社員のための会社を構築することを企業理念とします。

 「適格な確認審査」「健全な組織運営」という言葉は空々しいとしかいいようがない。過去、確認検査機関に関する事件としては、姉歯事件に関連して指定を取り消された確認検査機関イーホームズがある。(その後裁判においてイーホームズの過失はなかったと結審)

 また、指定確認検査機関の大手である日本ERIは、横浜のマンションの耐震強度不足を見落として確認通知書を交付し、マンションの区分所有者から損害賠償を求められ裁判となり、1審の判決では、横浜地裁は「構造計算書の誤りを修正しないまま建築確認をした」「大地震でマンション全体が倒壊する危険がある」と建替えの必要性を認めたうえで日本ERIなどに約14億の支払いを命じた。その後、控訴により高裁に審理の場が移り、結局6億6,500万円で和解している。

 日本ERIについては、大阪高裁においても、耐震強度不足のマンションに関して約 1億4,800万円の損害賠償金を建築主に支払うよう命じられている。

 姉歯構造計算偽装事件から15年近く経過している。2007年には建築関係法令や規準の改正が行われ、建築界全体で偽装防止に取り組んでいたはずである。しかし、建築確認の番人であるはずの指定確認検査機関は、相変わらず審査能力が向上せず、一部では不正まで横行していたのである。

 先日、東京都豊洲市場における構造計算偽装(設計者は日建設計)をめぐる裁判が結審し、5月に判決が言い渡されることをNetIBNews(「具体的な審理に踏み込まず豊洲市場裁判が結審!」)で報じたが、豊洲市場に関しては、建築主が東京都であり、審査を行ったのも東京都である。

 設計に不備があっても表沙汰にしたくないはずである。構造以外にも有害物質などの問題が山積しているうえに致命的な構造の偽装が加われば、豊洲市場を開場できなくなる恐れがあったので、東京都は、偽装を行った日建設計に柱脚メーカーのカタログを偽装させ、市場問題プロジェクトチームを規制事実化させた。東京都や日建設計など利権が絡む世界は、互いの組織に便宜を計ることにより「ムラ社会」が成立していた。

 AI建築確認検査センターの不祥事を見ると、指定確認検査機関と確認申請者側との癒着というムラ社会までも明らかになってくる。このような体質が改善されなければ、建築界における不祥事・偽装がなくなることはないだろう。第一線で働いている設計や施工関係者は誠実に業務を遂行している。一部の権限をもった者や、権力と結託した者が法令違反を繰り返し、建築界全体への評価を下げているのである。

 現在、Net-I・Bでは、豊洲市場以外の偽装設計物件の調査を進めている。これらの偽装物件は、当然のことながら 建築確認審査において確認検査機関が偽装を見逃していたのであり、その責任は免れない。偽装設計物件の調査が進めば、その結果をNetIBNewsで報じる予定である。

【桑野 健介】

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