2024年04月19日( 金 )

不動産とテクノロジーの融合目指し、既存の業界とテック企業を結ぶ(前)

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(一社)不動産テック協会 代表理事 赤木  正幸
(リマールエステート(株) 代表取締役)

 2018年9月、(一社)不動産テック協会は不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産に係る事業ならびに不動産業の健全な発展を図るため設立された。これまで協会では、不動産テックのカオスマップ作成や会員向けセミナー、イベントの開催を手がけてきた。さまざまなテック企業が生まれてはいるものの、依然として既存の業界から完全に受け入れられているとはいえないのが現状だろう。そのような現状の課題や、テック企業の採るべき戦略について、不動産テック協会代表理事・赤木正幸氏に話をうかがった。

不動産業界の窓口

赤木  正幸 氏
赤木 正幸 氏

 ――不動産テック協会の役割についてお聞かせください。

 赤木 会員企業はテック企業がほとんどで、100社以上に加入していただいています。不動産会社とテック企業をつなげるのが協会の役割であり、セミナーなどを通じてそのための情報提供を行っています。また、不動産テックのカオスマップ作成を通じて、業界動向や成功事例、失敗事例の共有を行っています。ルール整備も、協会に求められていることです。情報プラットフォームや契約書の電子化など、官公庁との意見交換は続けています。協会がきちんと機能することで、不動産情報のデータ化など社会インフラとして活用できるようになる可能性があると思っています。

 協会はしがらみのない団体なので、テックとも不動産業界とも連携しやすい存在です。業界は少子高齢化という共通の課題を抱えていますので、テクノロジー導入で解決できる分野は業界の各団体と垣根なく協力して、課題解決に向けて進められればと考えています。

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売れないサービスとは

 ――会員のテック企業からは多くの相談を受けていると思いますが、売れないサービスはどこに原因があるのでしょうか。

 赤木 テック側は、「お金を払う人」をしっかり意識することが重要だと思います。たとえば、スマートロックの導入に際してお金を払うのは物件オーナーです。物件オーナーからすれば、スマートロック導入は投資なわけで、導入によって儲かるかどうかが重要なのです。入居者の利便性がどれだけ高くても、オーナーが儲からないのであれば“便利なだけ”のものにはお金を払いません。

 業務支援系についても、「業務効率が向上します」といえば、現場からの感触は悪くないのですが、導入の意思決定をするのは社長なり幹部です。彼らからすると、単に現場の負担を軽減するだけのものにはお金を払いたくないのです。人を減らせるくらいのインパクトがあれば別ですが、現場の負担を軽くするというだけで売れるほど甘くないですね。これは、私が経営している会社(リマールエステート)も同様でした。弊社は不動産売買業務支援システムの「キマール」というサービスを開発し、販売しておりますが、当初は同じジレンマを抱えていました。

 キマールの開発で気付かされたのは、現場の負担軽減だけでなく、「従業員が何をしているのかを知りたい」というニーズでした。「誰が」「どの物件を」「どこに紹介しているか」をわかるようにすることで、機会損失を減らせますし、それを見やすく一覧にすることで、業務効率も大きく改善されます。メールで共有するという手もありますが、情報は共有できても管理するのが非常に面倒なので、その点を解決していくというのがキマールのメリットです。

 ――キマールを導入している会社は、どのようなところですか。

 赤木 大手が多いですね。ただ、最近は業界も人手不足で採用も簡単ではないので、大手だけでなく、多くの会社にご利用いただいています。

 売買も賃貸も同じですが、“スター選手”は独立したり良い条件のところに転職していくケースが多い。そこで、彼らのノウハウをいかに引き継ぎ、共有していくかということが課題となっています。勢いのある会社ほど、優秀な人材を留め、組織を強くすることに対する危機感は非常に高いです。優秀な人材のノウハウを組織に落とし込むことは、業界のみならず大きなテーマですね。

 ――導入の決定から運用までに、課題はありませんか。

 赤木 既存の業務フローというのはなかなか変えにくいですね。システムを導入しても、そのシステムに合わせようとしないところが多いように感じます。システム導入=カスタマイズという印象が日本では強いですし、100%の業務をカバーできないシステムは取り入れないというところも少なくありませんが、もったいないですね。1から10まで既存のフローに合った完璧なシステムというのは、サービスの乗り換えも困難ですし、そこを求めるのはもったいない。今は、いろいろなシステムを使ってそれぞれの機能を補完すれば、1つのシステムで完結する必要はないと思っています。

 システム導入には、既存の業務の洗い出しが必要です。副産物として、「この部門はこんな業務をしていたんだ」という気づきを上長は得ることができます。これにより、システムとは別に、効率化できることもありますので、柔軟に検討してみることで、いろいろな発見があります。

(つづく)
【永上 隼人】

(後)

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