2024年04月26日( 金 )

旧村上ファンドはなぜ、突然、「途中下車」したのか

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 賃貸住宅大手レオパレス21(以下、レオパレス)は2月27日、臨時株主総会を開き、旧村上ファンド系の投資会社レノが求める取締役1人を選任する株主提案を否決、取締役2人を選任する会社提案を可決した。総会直前、レノがレオパレスの全取締役10人を解任する提案を取り下げ、取締役候補を1人に絞ったことで、勝負はついていた。レノは、なぜ、振り上げた拳を下ろし、「途中下車」したのか。最大のミステリーだった。

前代未聞、議決権の棄権率の異常な高さ

 レオパレスは3月2日、臨時株主総会での議決権の結果を開示した。

 第1号議案(会社提案)。東洋シヤッター元社長・藤田和育氏は56.64%、パナソニックホームズの元上席主幹の中村裕氏は56.66%の賛成率で可決した。

 第2号議案(株主提案)。有料老人ホームを運営するシティインデックスホスピタリティ社長で、著名な投資家である村上世彰氏側近の大村将裕氏の賛成比率は44.48%と、過半数に達せず否決された。

 会社提案が可決し、株主提案が否決されたことは驚くにあたらない。レノが全取締役10人の解任提案を取り下げた時点で、勝負がついていたからだ。

 驚いたのは、棄権の割合が多数にのぼったことだ。会社提案の棄権の割合は、出席株主の議決権数の39.4%、株主提案の棄権の割合は20.9%に達している。こんな議決権の結果を、いまだ見たことはない。

会社提案に両ファンドは棄権、株主提案に国内ファンドは棄権か?

 臨時総会で議決権を行使できる基準日(1月24日)時点で、レノは15.76%、国内投資会社のアルデシアイインベストメント(以下、アルデシア)が16.10%、英オディ・アセット・マネジメント(以下、アセット)が14.34%を保有。3社合わせると46.2%。レノは2社の協力を取り付け、ほかの株主から4%の賛成を得れば、過半数に達する。

 勝敗の決め手は、2社が握っていた。棄権率の高さは、2社が棄権したことを示している。会社提案に両社は棄権したとみられる。だから、棄権率が異常に高かった。

 株主提案には、アルデシアが賛成しなかった。棄権に回ったとされる。アルデシアが賛成していれば、株主提案は可決したことだろう。

 一見すると、会社側の勝利に見えるが、宮尾文也社長以下の経営陣が安泰というわけではない。臨時総会の議決を見ると、かなりヤバイと言わざるを得ない。

レオパレスはレノと全面対決へ

 この間、レオパレスはレノとの対決姿勢を鮮明にした。各メディアのインタビューに応じ、「解体的買収だ」と反発した。日本経済新聞電子版(2月7日付)の取材には、レノの賃貸事業売却を含む株主提案について「短期的な色彩が強い」と真っ向から否定した。

 〈当社のビジネスはオーナーがいないと成立しない。旧村上ファンド系のレノによる提案は株主目線かもしれないが、我々はオーナーとの協調でビジネスを展開している。この賃貸事業は中長期的な視野で考えなければ、オーナーへの期待に応えられず、当社の企業活動も維持できない〉

日本経済新聞電子版(2月7日付)

 レノがトーンダウンして、候補者を絞った後も、反村上ファンド攻撃の手を緩めなかった。株主であるアパートのオーナーたちは「ハゲタカファンドに乗っ取られる」と危機感を募らせ、臨時総会に駆け付け、レノの提案に反対票を投じた。

 レオパレスは、かろうじて臨時総会を乗り切ったが、本番は6月の定時株主総会である。今回選任された取締役はあくまで6月の総会までの暫定。定時株主総会で、宮尾社長以下、全取締役の賛否が問われることになる。

 ファンド3社は、臨時総会で議決権を行使できる基準日(1月24日)以降、6月の定時株主総会をにらんだ動きを見せた。レノは株を買い増して保有比率を16.77%に、アルデシアも17.2%に引き上げた。逆に、アセットは売却を進め、10.18%に引き下げた。

 臨時総会で会社提案に棄権したとみられるアルデシアとアセットがどう出るかで、勝敗が決まる。

 レオパレスは5月に抜本的な事業改革案を明かにする予定だが、その改善案が株主還元を求める投資ファンドを納得させることができるか。不十分と見なせば、投資ファンドに付け入る余地を残す。臨時総会で棄権した投資ファンドが、本総会で会社提案の役員選任案に反対票を投じることもあり得る。

 レオパレスの再建には、まだ一波乱も二波乱もある。

村上氏は「両面作戦」を避けた

 今回の臨時総会は、レノの要求を受けて開かれた。レノは現経営陣が会社の抜本的立て直しに向けて無策すぎるとして、宮尾社長をはじめとする全取締役10人の解任と新たに3人の取締役就任を求めていた。

 臨時総会の開催が正式に決まった翌1月28日、レノは突然、株主提案を撤回。大村氏1人の取締役就任を求める株主提案にトーンダウンした。

 日本経済新聞電子版(1月28日付)は、レノが提案を撤回した理由をこう報じた。

 〈複数の関係者によると、「アルデシアは現経営陣が退陣すると、施工不良問題で国側との調整が困難になり事業改善が進まないことを懸念。全員の取締役解任に難色を示した」という〉

日本経済新聞電子版(1月28日付)

 アルデシアが抜けては、レノに勝ち目はない。負け戦はしない。それで、撤退したというわけだ。しかし、自分が仕掛けた臨時株主総会の開催が決まったのに、試合を投げ出したのだ。大相撲で、四股を踏もうと足を振り上げたところで、「待った」を掛け、土俵を下りたようなものだ。レオパレスならずとも、あっけに取られたのも無理はない。

 なぜ、レノは振り上げた拳を下ろし、「途中下車」したのか。

 村上氏が「両面作戦」を避けたためとされる。村上氏は現在、TOB(株式公開買い付け)と買収防衛策をめぐって、東芝機械と対立している。防衛策の是非を問う可能性もあり、東芝機械の案件に専念したいという意向もあり、レオパレスとの全面対決から降りたとみられる。

村上氏と東芝機械の攻防は最大の山場を迎える

 東芝機械は3月27日、臨時株主総会を開催する。投資家の村上氏が関与する投資会社との攻防が山場を迎える。総会の焦点は、買収防衛策の導入・発動だ。村上氏側は東芝機械に対してTOBを実施している。

 両社の対立が決定的となったのは1月17日。東芝機械は旧村上ファンド系のオフィスサポート(東京・渋谷)から同意できないTOBを予告されたとして、買収防衛策の導入を取締役会で決議した。

 1月21日、村上氏側は最大44%の取得を目指すTOBを開始。東芝機械は反対を表明したうえで、3月27日に臨時株主総会を開催することにした。村上氏側は3月4日としていたTOB期間を4月16日に延長。株主はTOB期間中の買収防衛策への賛否という、難しい判断を迫られることになる。

 攻防の最中の2月21日、三上高弘社長が退き、坂元繁友副社長が社長に昇格した。坂元氏は村上氏側との対応にあたってきた。株主総会シフトだ。ガチンコ対決の気運は一気に高まった。

 投資ファンドにとって、株主総会は最大の見せ場であり、書き入れ時なのだ。

【森村 和男】

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