波及性を有して多様な機能・役割を担う魅力ある都市公園とは――
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福岡大学 工学部社会デザイン学科 教授 柴田 久 氏
「N・H・K」を意識する
――公園を含めた公共空間のデザインにおいては、どのような点に留意しておく必要があるのでしょうか。
柴田 地方都市や地域における公共空間のデザインには、空間自体の魅力を高めるだけでなく、その空間を取り巻くまちや来訪者の活動などを促進させることが求められます。その達成のために重要なポイントが3つありますが、私はそれを「N・H・K」と呼んでおり、Nは日常性、Hは波及性、Kは継続性です。
都心に設置された都市公園においては、とくに波及性について考えておかなければなりません。一番難しいポイントではありますが、公園が新設されることによって、周囲にどういうメリットがあるのか、周囲の人たちがどう利活用することが可能なのか―など。公園が誕生することで、利用者や周囲の人たちが喜びを感じられるようにしていくことが大切です。
――先生が手がけられた「警固公園」は、まさに相乗効果を生む公園として再生を果たしました。
柴田 警固公園のデザインにも先ほどの「N・H・K」が反映されています。公園の外にいる人から公園のなかがどう見えるのか、逆に公園のなかから外がどう見えるのかなど、公園の内外を視覚的につなげるということにも取り組み、見通しや回遊性を向上させるためのデザイン的工夫を凝らしました。また、隣接する複合商業施設「ソラリアプラザ」が、公園のデザインに合わせて、公園側の1~6階の壁面をガラス張りにするなど、連携が図られたことも大きかったと思います。
Park-PFIは官民連携が大事
――公園整備に関しては近年、民間企業の力を活用するPark-PFIが注目を集めています。
柴田 公園の整備や維持管理に民間の力を活用する―。このことはとても有効だと思いますが、注意すべき点もあります。たとえば有事の際、公園は避難場所として利用される可能性があります。自然災害の発生が決して少なくないなか、公園の維持管理には防災という観点や、公益性も求められるのです。
Park-PFIで公園の整備・管理を行う民間企業は、当然ながら収益性を念頭に活動を展開していくことになります。しかし、公共空間である公園で事業に取り組む以上、公益性を無視することはできません。たとえば、公園が賑わうことで、周辺の店舗や商業施設にも人の流れが生まれ利益が循環するといった、相乗効果についても考える必要があります。公園内だけが賑わっていて、周辺の飲食店は閑古鳥が鳴いているといったような、エリアの活性化とは逆の効果を生み出してはいけません。
また、Park-PFIは、これまで行政が担ってきた役割のすべてを、民間企業が肩代わりするわけではありません。行政も責任を共有していることを忘れずに、公園のコンセプト設定からこの事業者のプランで波及効果をおよぼせるのかなど、真剣に考えるべきです。
たとえば、民間企業に維持管理を任せてからある程度の期間が経過し、賑わいを創出することができずに運営していた施設の営業継続が困難となった場合、民間企業は撤退することになるでしょう。それは、制度や取り組み自体の失敗を意味します。そうならないためにも、行政は事業者の財務状況や人員などの運営体制などもしっかりと把握しておく必要があります。最初の事業者の選定段階から、行政には大きな責任があるといっていいでしょう。
民間企業の運営にはある程度の自由度が必要ですが、監理すべきところは行政がきっちりと引き締めなければいけません。とはいえ、引き締めすぎると、今度は民間ならではの自由かつ良いアイデアが埋もれてしまう可能性もあります。ここのバランス感覚や見極めが重要です。
公園に求められる役割
――都心に位置する公園には、どのような役割が求められるのでしょうか。
柴田 まず、運動やレクリエーションなど、憩いの場としての役割が公園にはあります。また、居住環境の向上といった点からも、多くの人が集う都心に公園があることの意義は大きいと考えます。さらに大濠公園のように、公園そのものが地域を象徴するランドマークとして高い評価を得ている場合、周辺のマンション価格や地価の向上にもつながります。
最近は、都心でも空き地や空き家、駐車場が多くなっていますが、たとえばそこが公園として再開発されれば、周辺不動産の価値も変わっていく可能性があります。公園には、日々の生活やそれを支える経済活動に対して、メリットをもたらす力があるのです。
ただし、空地であることにも意味があるということは留意しておかなければなりません。公園による賑わい創出ばかりが着目されがちですが、災害の際には逃げ込める“空き”の価値も再考されるべきだと考えています。
――防災機能も含めて、公園に求められる役割は今後さらに増えていきそうです。
柴田 単一の機能で見ると優れた公園というのはたくさんありますが、さまざまな機能をバランス良く兼ね備えた公園はそう多くありません。周辺住民の憩いの場としてだけでなく、不動産の価値向上につながり、さらには避難場所にもなり得る総合的な公園づくり―これが今後の課題といえるでしょう。実現のためには、デザイン段階でこれらを組み込んでいけるように、関係各所と協力体制を構築していくことも重要です。また一方で、都市のなかで複数ある公園ごとの役割分担があってもいいでしょう。
多様な使われ方、多様な役割を担える公園を設置することは、都市の魅力向上につながります。公園単独でのデザインだけでなく、周辺エリアを含めた関係性や役割、波及効果など、公園が都市に賑わいを生むためには、複合的な取り組みが必要になります。
【聞き手:坂田 憲治/文・構成:代 源太朗】
<プロフィール>
柴田 久(しばた・ひさし)
1970年、福岡県生まれ。福岡大学工学部社会デザイン工学科教授。博士(工学)。2001年、東京工業大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻博士課程修了。専門は景観設計、公共施設のデザイン、まちづくり。カリフォルニア大学バークレイ校客員研究員などを務め、南米コロンビアの海外プロジェクトや九州を中心に、四国、東北を含む約50の公共空間整備、地域活性化に向けた事業、計画、デザインの実践に従事している。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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