2024年03月29日( 金 )

シリーズ・コロナ革命(18)~小売業を取り巻く辛苦の多重奏 まさに転機の時

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 我が国の小売業界ではここ数年、広域の提携や協業化が進んでいる。北海道、東北地盤のアークスと岐阜が地盤のバローホールディングス、中国、九州のリテールパートナーズが新日本スーパーマーケット同盟を立ち上げた。グループを合わせると1.3兆円になるが、市場環境だけでなく、取引先や企業風土が違う企業同士の協業はその効果をどう導き出せるかは不透明だ。もともと、複数の企業共同体がさらに距離と文化の差を加えての協業だからスムーズな運営は簡単ではない。

 中四国といえば、四国の雄、フジとイオンの業務提携も今後の動向が注目される。長年ライバルだった両者の提携は、今後のさらなる協業に含みをもたせた注目すべき提携でもある。イオンは自ら展開する総合スーパーやマックスバリューに加えて、マルナカを傘下に収めているから同地域における売上高1兆円に遠からず手が届く。

 そのほかにも新潟の原信と群馬のフレッセイが提携したアクシアル リテイリングやヤオコーとライフの提携など少なくない統合や協業が目白押しだが、最後は主導権を取る企業に統一されることになるのだろうか。

 いずれにしても地域を越えた提携が盛んになる背景には今後我が国の小売市場が縮小し、各社独自の戦略での生き残りが見えなくなっているということが根底にあることは誰にも異論のないところだろう。

トレンドを睨んだ戦略

 我が国の小売業と違って、規模だけに甘んじることなく新たな戦略に着手を始めているのが世界最大の小売業のウォルマートとホームセンター最大手のホームデポだ。この数年、新規投資の大きな部分を店舗建設でなく、オンライン販売のための環境整備に振り向けている。この部分への対応が遅れると、深刻な状況に陥ることを予測しての戦略転換だが、その効果は店舗を増やさず売上を増やすという結果に表れている。

 アメリカに日本車が溢れているように、また、我が国を中国製の衣料品が席巻するように、消費者は品質や価格、利便性にメリットがあれば、自国品に執着することはない。現にアマゾンは2000年に日本語サイトを立ち上げ、20年で日本の売上高1.7兆円を達成するまでになっている。これはユニクロの国内販売額の2倍の数値だ。リアル店舗をもたず、オンラインだけの販売で売上高1.7兆円は、リアル店舗企業から見れば驚異を通り越してまさに脅威だ。

ネット直販のリアル店舗実験

 17年、アマゾンはホールフーズというリアル小売業を137億ドルという巨費を投じて買収した。その本当の意図がどこにあるのは別として、創業者のジェフ・べゾフの思いは困難といわれる生鮮食品の宅配に挑戦し、成功させたいという強い思いがあったことは想像に固くない。容易でないことに挑戦するという決断は小売の進化に欠かせない。まさにmake a difference である。

 生鮮に厳しいデマンドをもつ我が国の消費者は食品、とくに生鮮食品のオンライン購入は馴染まないという考え方が大勢だ。事実、イオンやヤオコーなどの大手小売業も宅配部門には苦戦している。だからといって、タカをくくっているとやがてアメリカでオンラインノウハウを蓄えたアマゾンが国内の中堅スーパーを買収し、我が国の市場に参入しないとも限らない。

 株の世界にも、「人の行く裏に道あり花の山」という格言がある。小売業の世界は、はっきり言って「真似」が中心の世界である。真似て、真似て、真似尽くし俺が本家と胸を張る(笑)こともある。しかし、時代が激変するとき、模倣は陳腐化の実行になってしまいかねない。

ネットのポストモダン

 最近よく聞くD2Cというネット通販がある。自社で製作した商品をネット直販するビジネスだが、SNSも利用して消費者に商品情報を届け、ブランドをつくり上げることを基本戦略としている。そのオンライン企業がリアル店舗を利用したブランド認知に乗り出した。

 それらの企業を取りまとめ、新たな顧客周知の場を提供するのがネイバーフッズグッズという企業だ。出店企業を消費者から認知されるための優秀な販売員、データ収集、情報発信などでD2C企業を支援する。ネットとリアルの互換性を目的としたこの試みは空き店舗の増加に悩むアメリカのSCにも朗報となるかもしれない。アメリカの近、現代の小売は次々にイノベーションを起こした。これは紛れもない事実だ。我が国の小売業は彼らがつくったものを真似た。しかし今、真似から独自の世界をつくり出す必要に迫られている。それができるかどうかが、今後の我が国の小売業を大きく左右するのだろう。

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

 1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に㈱ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

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