2024年03月29日( 金 )

世界を混乱させる新型コロナウイルスCOVID-19の感染力(3)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 「再選間違いなし」と思われてきたトランプ大統領の前途に暗雲が立ち込み始めた。新型コロナウイルスについて、トランプ大統領は「アメリカには世界最高の医療チームが健在だ。多少の感染者は出るかもしれないが、まったく問題ない」と豪語していた。ところが、カリフォルニア州、ワシントン州、テキサス州などで次々と感染者が発生。死者も相次いでいる。そして「トランプ・タワー」がそびえるニューヨークでも感染者が確認。とくに感染者の拡大が止まらないカリフォルニア州のロサンゼルスでは3月4日、ついに「非常事態宣言」が発令された。

金正恩の隠し玉

 他方、3月2日午後、北朝鮮は東部の元山(ウォンサン)付近から日本海に向け短距離ミサイルを2発発射した。こうした飛翔体の発射は昨年11月以来のこと。河野太郎防衛相は「北朝鮮でも新型コロナウイルスの感染が広がっているようだが、そうしたときにミサイルを発射する狙いを分析したい」とコメントはしたが、国民の関心に答えるような説明は一切ないままだ。

 世界中でCOVID-19が蔓延中なのに、発生源の中国と陸続きの北朝鮮で感染者が出ないわけがない。金正恩委員長は2月8日の「人民軍創建日」の軍事パレードを中止した。しかも、22日間にわたって公の場に姿を見せなかった。その間、フランスから医療専門家チームが密かにピョンヤンに入った。そのため、糖尿病の持病があるといわれる金正恩が感染したか、あるいは感染を恐れて予防策に走ったとの観測が流れたものだ。

 北朝鮮は世界に先駆けて中国との国境を封鎖し、陸路も空路も遮断した。とはいえ、北朝鮮は必要な食糧やエネルギーの大半を中国に頼っているため、闇ルートで人やモノの往来は続いている。国境の町である中国の丹東市周辺でも新型コロナウイルスの感染は確認されているため、北朝鮮保健省の担当官が「国内での感染者は1人もいない」と見栄を張っても、信じることはできない。

 「デイリーNK」の報道では丹東市の川向うに位置する北朝鮮の新義州市で5人の死亡が確認されたとのこと。しかし、当局が死体を秘密裏に処理し、感染の拡大を隠蔽しているもようだ。いくら政府が国境を閉鎖しても、生きていくために必要な物資を入手するため、多くの北朝鮮密売人が中国との間を行き来している。国営放送によると、7,000人が経過観察中らしい。韓国発の情報では北朝鮮での感染死者数は1,000人を下らないもようとのこと。

 「労働新聞」によれば、「事態を憂慮した北朝鮮政府は3万人の軍人を投入し、家庭訪問による感染防止作戦を展開中」。また、「ピョンヤンに入るすべての道路には検問所が設けられ、厳重な検査を実施中。外国からの訪問者には30日の隔離体制が組まれた」とのこと。

 実は、ピョンヤンには各国の大使館や国際機関の事務所が置かれている。WHOの出先機関もある。現地にいるロシアやドイツの大使に聞くと、「外出が制限され、買い物も思うようにできない。郵便物の配達もストップしたまま」との返事。医療機関の体制も懸念材料で、経済制裁の影響もあり、検査器具や治療薬も満足には手に入らない。ピョンヤン在住の外国人の間では日増しに不安感が広がっている。北朝鮮政府は各国の外交官を対象に臨時便を用意し、ロシアのウラジオストクに避難させる準備を始めた。

 北朝鮮から韓国に亡命したチョイ・ユンフン医学博士いわく「蔓延すれば、北朝鮮は救いようがない。ただでさえ栄養状態が悪く、免疫力が低い。大量の死者が出るだろう」。韓国系アメリカ人のビクター・チャ博士は「北朝鮮では国家の崩壊もあり得る」と語る。北朝鮮メディアが「国家存亡の危機だ。全国民が一丸となって戦わねばならない」と檄を飛ばすのも無理がない話。

 そこで金正恩委員長の取った行動はミサイル発射である。その狙いは明白だ。思い出してほしい。義理の兄をマレーシアの空港で殺害した事件を。使われたのは猛毒のVXガスだった。「NTI(核脅威イニシアティブ)」の調査によれば、「北朝鮮は2,500tから5,000tの化学兵器用の材料を保有している」。

 金正恩の内心は「新型コロナウイルスなど怖くない。俺の手元にはサリンもVXも山のようにある。いつでもミサイルに積んで、ソウルだって、東京だって、米軍基地だって、狙った標的に生物化学兵器を打ち込むのは朝飯前」というわけだ。アメリカのランド研究所いわく「北朝鮮には20万人規模の特殊部隊がいる。彼らは生物化学兵器を使って韓国、日本、アメリカを攻撃する準備に余念がない」。

 昨年末と期限を切って、アメリカから譲歩を引き出そうとしたが、トランプ大統領からは無視されてしまった。こうなれば最後の手段として「細菌兵器を積んだミサイルなら、撃ち落とそうとすれば、細菌が拡散するので、アメリカも日本も迎撃できないだろう。そんな攻撃をしてほしくないなら、経済制裁を一刻も早く解除しろ」。これが新型コロナウイルス拡大を恐れる世界を相手にした金正恩の隠し玉に違いない。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸 (はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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