2024年04月21日( 日 )

新型コロナ発言を2時間で撤回した孫正義氏に何が起きているのか~カリスマ経営者・孫氏の許から去っていった人々(後)

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「ご意見番」がいなくなった

 それでは柳井氏が、18年間務めてきた社外取締役を辞めたのはなぜか。

 ソフトバンクG傘下のZホールディングス(旧・ヤフー)は19年11月、ファッション通販サイト・ゾゾタウンを運営するZOZOを買収した。ゾゾタウンは、ユニクロのライバルの同業者だ。ZOZOの買収を利益相反行為と捉えた。ZOZO買収に堪忍袋が切れて、辞めたと受け取られた。

 柳井氏の退任は、ソフトバンクGにとっては転機となる大きな事件だった。とういうのは、孫氏に対して「ストッパー」として反対意見を主張してきたのが、柳井氏だったからだ。

 柳井氏の退任を、「ソフトバンクの終わりの始まりか?」と危惧するネットの書き込みがみられたのも無理はない。それほどの衝撃をもたらした。

 永守氏に続いて、柳井氏も孫氏の許を去り、「ほら吹き三兄弟」の結束はバラバラになった。これで、孫氏の周囲には「ご意見番」がいなくなった。あとは、テレビ番組『ドクターX』の医師たちのように「御意」を唱える人ばかりになる。

ドル箱であるアリババ株の売却を検討

 ソフトバンクGは3月23日、保有株など最大4.5兆円分の資産を売却すると発表した。保有する資産価値の2割弱にあたり、自社株買いや負債圧縮に充てる。

 自社株買いは最大2兆円。ソフトバンクGは13日にも最大5,000億円の自社株買いを発表しており計2.5兆円となる。

 同社株を大量に取得した米投資ファンドのエリオット・マネジメントが「世界で最も過小評価されている銘柄」と指摘し、ソフトバンクGに株価を引き上げるために2.2兆円の自社株を要求していた。

 孫氏は、それを受け入れて、株価上昇策として2.5兆円の自社株買いを実施する。ソフトバンクG株は、この1カ月で5割超下落。コロナウイルスの拡大による世界的な株安で、投資先のウーバー・テクノロジーなどの株価が大暴落しているためだ。

 通信社のブルームバーグ(3月24日)は、関係者の話として売却する銘柄を報じた。

 中国の電子商取引会社アリババ・グループ・ホールディングスの株式約140億ドル(約1兆5,000億円)相当の売却を計画している。(中略)国内通信子会社ソフトバンクの一部株式や、米スプリントの持ち分の一部をTモバイルUSとの合併完了後に売却することも検討している

ブルームバーグ(3月24日)

 孫氏が過去に投資した20億円が、アリババの上場で5兆円の時価総額に大化けした。アリババは、孫氏の投資人生の一丁目一番地であり、ソフトバンクGの宝庫だった。一部とはいえ、アリババ株を売却する。孫氏が、いかに追いつめられていたかを示している。

 売れるものは、アリババのような優良資産に限られる。手元に残るのは、売りたくても売れないガラクタばかりになりかねない。自社株買いの期間は株価を下支えするだろが、中長期的にはソフトバンクGの経営に黄信号が灯ることになる。

孫氏は最大の危機を乗り越えることができるか

 「負ける戦いはしない。負けるだろうという戦いはもちろん、負けるかもしれないとか、苦戦するだろうという戦いは最初からしない」

 この言葉を信条とする孫氏にとって、投資の失敗による撤退や縮小は、おそらく初めての経験だろう。最大の危機を乗り越えることができるだろうか。

 攻撃は最大の防御なり。ひたすら攻め続けてきた孫氏だが、意味深長な言葉を残している。

 「すってんころりんと転ぶかもしれない。しかし、めざしたものがそこにあれば、死ぬ5分前に、ああ、楽しい人生だったな、はるかに有意義な人生だったと、思える気がする」

(了)
【森村 和男】

(中)

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