民間救急の可能性を広げるらかんのユニバーサルツーリズム
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(有)羅漢 取締役社長 徳久 武洋 氏
6年前から開始した民間救急が、高い評価を受けている(有)羅漢。2019年からは宿泊施設と連携し、重篤な要介護者でも旅行を楽しめる「ユニバーサルツーリズム」を展開している。誰もが終身幸せに暮らせる生活共同体「CCRC」(生涯活躍のまち)への寄与が期待されるサービスについて、同社の徳久社長に話を聞いた。
民間救急への挑戦
――民間救急を始めたきっかけについて聞かせてください。
徳久 私は高校を卒業してから20年以上、葬儀事業に関わってきました。何か新しいことにも挑戦したいという思いが募るなか、知人の経営者から教えてもらったのが民間救急でした。私自身、母方の祖母や、恩師の介護と看取りを終えた時期だったことも重なり、この経験を役立てられるのではないかと考え、6年前に「民間救急らかん」を始めました。
――御社は糸島市を拠点に活動されていますが、民間救急の利用状況はいかがでしょうか。
徳久 弊社の民間救急は、月に50~60件利用されていますが、糸島市内の利用はそのうち約15件程度で、福岡市内からの利用が大半を占めています。福岡市内には複数の大病院がある分、転院調整も多くなることで、民間救急への需要も高いのです。
民間救急は、介護の資格、介護タクシーや旅客事業の認可、消防庁の認定、医療資器材の完備など、複数の要件を満たす必要があります。弊社は、介護士や救急救命士・看護師を含む6名のスタッフ、民間救急車3台体制でサービス提供を行っています。車両は医療資器材を多数搭載した救急車ハイメディックタイプ、最大10名乗車可能なリフト車タイプ、小回りが利く車椅子専用タイプの3タイプを、利用される方の状態に合わせて使い分けています。
弊社の民間救急の特徴として、救急救命士や看護師が付き添うことで、重篤な要介護者の方も移送可能な点が挙げられます。その分、相応の時間を要しますが、ここまで対応できる事業者は少ないため、東京や大阪など、全国各地からの依頼も増えてきています。
多職種連携で思いをかたちに
――昨年、嬉野温泉と連携して、ユニバーサルツーリズムを始められました。
徳久 民間救急を利用される方とお話しするなかで、「海を見たい」「美容室へ行きたい」という声を聞き、思いに応えようと実際に海や美容室へお連れしました。しかし、ある末期がんの患者さまの「元気なころに行っていた温泉に行きたい」という思いは、ご存命のうちに実現させることは叶いませんでした。寝たきりの方を遠方へ連れていくのは、それ自体が非常に難しく、仮にできたとしても、移送中に何かあった際のリスク管理や訪問先の受け入れ体制など、課題は山積しているのです。
それでも、何か方法はないかと探し続けるなかで出会ったのが「佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター」でした。身体の不自由な方向けに観光案内をされていて、バリアフリー化された温泉を備える旅館の紹介もされています。私はすぐ佐賀・嬉野へ出向き、先方との2年間の協議を経て、連携できるようになりました。これが、民間救急を活用したユニバーサルツーリズムの発端です。
――ユニバーサルツーリズムという選択肢があることが、生きがいにもつながります。
徳久 尊厳死や終末期をどう過ごすのかという議論が活発化しており、人生の締めくくり方も選択できる時代に突入したと感じさせられます。「旅行先で死んでもいい」とおっしゃる方もおられますが、この場合、利用者さまの意向を十分におうかがいし、同意書などにサインをいただく、ご家族さまやかかりつけ医療機関にもご理解をいただく、そのうえで実施するようにしています。ユニバーサルツーリズムは、関係者全員が納得し、一緒になってつくり上げていくサービスなのです。
――佐賀・嬉野以外にも、連携が広がっていくといいですね。
徳久 「日本バリアフリー観光推進機構」主催のフォーラムに参加した際に、鹿児島と大分・別府から興味をもっていただき、話を進めている段階です。大分・湯布院では協力していただける旅館も見つかり、実際にお連れすることができました。重篤な利用者さまをほぼ24時間体制でサポートすることから、高額となるこのサービスですが、生命保険にはリビングニーズ特約(※)というものがあります。先進医療や抗がん剤の費用などに充てる以外に、旅行を終末期の生きがいととらえていただけたら、闘病の目標にもなり、家族との思い出づくりにもなります。限られた時間をどう過ごすか、終末期をどう生きるか、私たちがその力強いサポートになれたらと思います。
――最後に、CCRC(生涯活躍のまち)について、自由な意見をお聞かせください。
徳久 「人生100年時代」といわれますが、誰もが健康に生き続けられるわけではありません。在宅医療を希望する重篤な要介護者を家に連れて行こうにも、それが団地の5階となれば、容易ではありません。我々が必要とされるシーンがここにあります。また、現場で働く介護士や看護師のケアにも、目を向けなければいけません。CCRCや地域包括ケアシステムには、多職種連携による多様な選択肢の提案が求められます。これまで以上に、「役割を分け合っていく」という考え方が重要になってくるでしょう。
「幸せとは何か」――それは、究極的には個人の価値観によります。何が求められているのか、日ごろの会話から理解できていれば、本当に必要なケアが自ずと見えてきます。便利さからくる満足、そのもう一歩先にある「幸福」を感じてもらえるサービス体制の構築が大切なのです。
【代 源太朗】
(※)医師から余命宣告を受けた場合に、契約中の死亡保険金の一部または全額を生前に受け取れる制度^
Information
所在地:福岡県糸島市二丈松末1184-1
設 立:1999年7月
TEL:092-325-0099
URL:https://rakan-itoshima.com関連記事
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