2024年04月17日( 水 )

新型コロナウイルスはグローバリズム、国家運営を変えるか

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国連事務総長:第2次世界大戦以来の「最大の試練」

 新型コロナウイルスの流行について、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は3月31日、世界にとって第2次世界大戦以来の「最大の試練」だと警告し、東京大学名誉教授・政治学者の姜尚中氏は約90年前の世界恐慌にも匹敵する不況をもたらしかねないと述べている。ILO(国際労働機関)の報告書によると、世界で最大2,500万人が失業する可能性があるという。事態はコロナ恐慌ともいえるほどに深刻化しており、私たちは現在、数十年に一度の危機に直面しているのかもしれない。

 NetIBNewsでは新型コロナウイルスがもたらす影響を「革命」的なものとして論じてきたが、現在グローバリズムへの反発、内向き志向が強まっており、また国家の主権国家としての存在感が増している。現在、日本を含め多くの国家が諸外国との出入りを規制し、国内での社会活動を制限するなど、国民を最終的に守る意志をもつのが国際機関、多国籍企業ではなく、国家であることを改めて示している。

財政出動による「新ケインズ時代」の到来か

 前述の姜氏は、当時の世界恐慌に際し、世界の主要国は3つの選択肢――ファシズム、計画経済、ニューディール型の資本主義体制のなかから1つを選んでおり、いずれも国家主導型の経済再生という点で共通していると述べる。

 ある調査機関のレポートは、英国で過去300年に財政赤字の対GDP比が200%まで上昇したことが1815年(ナポレオン戦争時)、1920年(第一次世界大戦後)、1945年(第二次世界大戦時)の3回あり、今回はそれにつぐものになる可能性を指摘する。同レポートは、今後、財政出動により「新ケインズ時代」の繁栄期に入っていくと予測しており、各国は自国経済の救済のために大幅な財政出動に踏み出すのか注目される。

 主権の移譲、国家統合とグローバル化を進めてきた欧州各国も、財政出動を行うための環境を整えつつある。欧州委員会は3月20日、財政赤字をGDP比3%以内に抑えるというEU加盟国共通の財政ルールを一時停止する方針を発表済みであり、英国は1月31日にEU離脱を終えている。ただ、新型コロナウイルス対策のためのEU共通のコロナ債の発行に関して、感染被害が比較的深刻ではないドイツ、オランダ、北欧などの国家は元々の財政規律重視の姿勢を崩さず、自国の負担増を懸念して反対しており、感染被害、財政状態が深刻なイタリア、スペインなどとの足並みが揃わなくなってきている。新型コロナウイルスによって、EU加盟国のなかには、ほかの加盟国との協調を最優先にする余裕がなくなっていき、欧州懐疑主義が強まる国も出てくるであろう。

再び公的資金の導入が行われるか

 現在、最も影響を受けている業界の1つがグローバリズムの恩恵を受け拡大してきた航空業界であり、業界を取り巻く状況は大変なものである。TOPIX(東証株価指数)業種別指数において「空運業」は全33業種中で値下がり率が首位となっている。国内航空会社から構成される定期航空協会によると、新型コロナウイルスの影響を受けた2~5月の業界全体の減収は約5,000億円に達し、2008年のリーマン・ショック時の約3,000億円を上回っている。

 ANAはすでに日本政策投資銀行の「危機対応融資」を活用して3,000億円規模の資金を調達する方向で調整しており、また、政投銀、民間の金融機関に対して計1兆3,000億円規模の融資枠を求めているという。麻生太郎財務相は、航空会社は地域経済、インバウンドを支える日本経済にとっての屋台骨であり、民間金融機関と連携して政府系融資などを検討すると表明している。

 ただ、新型コロナウイルスの流行が早期に収束に向かうとは思えず、かつてのJALのように経営破綻し、公的資金の投入が検討される航空会社が出てくる可能性がある。航空会社の業績悪化は、政府による渡航制限、各種活動の自粛要請の影響を受けてのものであり、また航空便は社会的インフラという性格をもつことから、税金の投入に対して世論の理解は一定程度得られるだろう。

JAL、ANAの現況と対応策

 各国が大胆な財政出動を行っていけば、先述の調査機関レポートの見立てどおり、新型コロナウイルスは国家の経済財政運営を新自由主義からケインズ的なものへと再びシフトさせるものとなる。安倍政権は元来、財政健全化よりも景気対策を重視してきており、柔軟な財政政策を行うことへの抵抗は少ないはずだ。

 姜氏は、今後の国家には、社会からの制約を受けずに振る舞う国家になるか、または非常事態には例外的に独裁的な権限を行使するが「強い社会」からの制約を受ける国家になるかという大まかな二者択一が迫られると指摘する。安倍政権には、この非常事態において、ぜひ強い政治的意志を示していただきたい。

【茅野 雅弘】

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