2024年04月26日( 金 )

今も収束していない福島原発事故~再爆発防止の応急措置が続く(中)

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元京都大学原子炉実験所助教 小出 裕章 氏  

 もはや過去の出来事のように言われている福島第1原発事故。しかし今でも収束しておらず、これ以上爆発が起こることを防ぐ「応急措置」が続いている。今、福島原発では何が起こっているのか。断片的にしか情報が伝えられていない放射能汚染の実態とは。これから日本はどうしていくべきなのか。福島原発事故の全貌と今後の展望を、元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏に聞いた。

チェルノブイリのように石棺で封じ込めるしかない

 小出 廃炉にするために、原子炉格納容器に水を溜めて強すぎる放射線を水で遮り、溶け落ちた核燃料をつかみ出す方法が検討されています。しかし格納容器そのものが壊れていて水が漏れており、いくら水を入れても格納容器に水が溜まりません。破れている穴を修理するにも放射能が強すぎて調べられず、9年経ってもどこが壊れているのかわかっていないのではないでしょうか。

 上から取り出す方法は技術的に難しく、格納容器の横に穴を開けて核燃料を取り出す方法が今は最有力です(図2)。しかしそうすると膨大な被爆作業になり、30~40年経っても横から溶け落ちた核燃料を取り出すことはできないと考えています。

 溶け落ちた燃料を取り出すため、作業ロボットの開発も進められてきました。ロボットが動くプログラムを載せたICチップは放射線に弱く、強い放射線を受けると指示通りに動かなくなります。いまだに現場作業までたどり着けていません。ロボット作業ができないことも、作業が進まない原因です。 

 最終的に福島原発は、チェルノブイリと同じように原発建屋を石棺で封じ込めるしか方法がないのではないかと考えています。しかし放射能が高すぎて近づけず、電子機器も使えず取り出せていない1~3号機の使用済燃料プールには、原子炉格納容器のなかで溶け落ちた核燃料より多くの使用済核燃料が残っています。そのため水を循環させて冷やし続けなければ、使用済燃料プールの核燃料も溶けてしまい被害がさらに拡大する可能性があります。使用済核燃料は石棺で被うと取り出せなくなるため、まず使用済み燃料プールから核燃料を取り出さなければ、石棺で被うところまでたどり着けません。

 4号機は、使用済燃料プールから核燃料を移していますが、1~3号機の使用済燃料プールはいつ崩壊するかわからない状況です。今より深刻な汚染が起こるリスクがあるため、使用済燃料を早く安全なプールに移すことが必要ですが、1~3号機はほとんど手がつけられていません(表1)。

 

「絶対壊れない」想定から「想定外」事故に

 ――なぜ想定外の事故が起こったのでしょうか。

 小出 原発を建てる場所を決める立地審査指針では、技術的に最悪の事態を想定した重大事故、それよりも被害がさらにひどい仮想事故を考えて、住民がどれだけ被ばくするかという安全審査をします。しかし、技術的に起こりえない仮想事故でも、原子炉格納容器は絶対に壊れないと想定されていました。格納容器が壊れたらどうするのかを「想定不適当事故」と切り捨ててしまったのですね。今回の事故では、仮想事故も超えた原子炉格納容器が壊れる事態が起きたため、「想定外」の烙印を押したのです。 

 発電所がすべて停電し、原子炉格納容器が壊れるケースまでを想定すると、原子力発電所はできなかったからではないでしょうか。一方で、やはり事故が起こるとリスクがあることがわかっていたから、電力大消費地の首都圏から離れた場所に建設しています。

 太平洋戦争でも、戦争に勝てると考えている人ばかりではなかったでしょう。原子力発電も、なかには危険性に気づいていた人もいたかもしれません。しかし国がレールを敷いて流れがつくられると、太平洋戦争のようにほとんどの人は抵抗できないのだと感じました。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
小出 裕章(こいで・ひろあき)

 元京都大学原子炉実験所助教。工学修士。1949年8月、東京の下町・台東区上野で生まれる。68年、未来のエネルギーを担うと信じた原子力の平和利用を夢見て東北大学工学部原子核工学科に入学。しかし原子力について専門的に学べば学ぶほど、原子力発電に潜む破滅的危険性こそが人間にとっての脅威であることに気づき、70年に考え方を180度転換。それから40年以上にわたり、原発をなくすための研究と運動を続ける。2015年3月に京都大学を定年退職。現在は長野県松本市に暮らす。著書に『隠される原子力・核の真実─原子力の専門家が原発に反対するわけ』(2011年11月/創史社)、『100年後の人々へ』(2014年2月/集英社新書)、『フクシマ事故と東京オリンピック』(2019年12月/径書房)ほか多数。 

『フクシマ事故と東京オリンピック【7カ国語対応】
The disaster in Fukushima and the 2020 Tokyo Olympics』

 いまだに福島原発事故は収束しておらず、緊急事態宣言は解除されていない。福島原発事故の今を写した心を打つ数々の写真とともに、日本の向き合うべき現実と課題を伝えている。2020年5月下旬にはKindleをはじめ、各種電子書店での電子書籍販売も予定している(小出裕章著、径書房
2019年
)。

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