2024年04月16日( 火 )

積水ハウスのドンの座をめぐる会長と前会長の壮絶バトル~新型コロナの緊急事態宣言下、「三密」総会を強行した会社側が勝利(前)

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 会長か前会長か――。経営対立に揺れる積水ハウスは4月23日、大阪市で定時株主総会を開いた。会社提案の阿部俊則会長らの取締役選任が可決、和田勇前会長らによる経営陣刷新の株主提案は否決された。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下で、株主総会を強行した会社側が勝利し、和田前会長が完敗した。

和田前会長の賛成率はわずか6.13%

 積水ハウスは4月24日、定時株主総会の臨時報告書を開示した。
最大の注目は取締役の選任議案だ。会社提案(第3号議案)は、阿部俊則会長や仲井嘉浩社長らの再任など12人の取締役選任の件。株主提案(第8号議案)は、和田優前会長ら11人の取締役選任の件。
 臨時報告書によると、阿部俊則会長の取締役再任への賛成比率は69.27%だった。前回の改選期だった2018年の総会と同様に約3割の株主が反対した。経営陣の刷新を求め、取締役への復帰を提案した和田勇会長への賛成は6.13%にとどまった。阿部氏の完全勝利とはいえないが、和田氏は完敗である。
 和田氏は総会前、メディアのインタビューに応じ、「勝算は十分にあり」と語っていたが、百戦錬磨の経営者である和田氏がなぜ、票読みを誤ったのか。勝負を分けた要因は、新型コロナウイルスの感染拡大である。

 

■第3号議案(会社提案):取締役12名選任の件
氏名 地位 賛成比率
阿部俊則 代表取締役会長 69.27%
稲垣士郎 代表取締役副会長 72.87%
仲井嘉浩 代表取締役社長 85.32%
内田隆 代表取締役副社長 85.97%
涌井史郎 社外取締役(東京都市大学教授) 96.73%
吉丸由紀子 社外取締役(三井化学社外取締役) 97.82%
北沢利文 社外取締役(東京海上日動火災保険副会長) 97.19%
田中聡 社外取締役(三井物産顧問) 97.19%
西田勲平 取締役専務執行役員・仲介賃貸事業本部長 96.91%
堀内容介 取締役専務執行役員・IR部門、業務推進部門担当 96.92%
三浦敏治 取締役専務執行役員・技術部門、生産調達担当 96.69%
石井徹 取締役専務執行役員・開発事業、マンション事業担当 97.01%

 

■第8号議案(株主提案):取締役11名選任の件
氏名 備考 賛成比率
クリストファー・ダグラス・ブレイディ  
  チャート・グループ会長兼CEO 30.49%
パメラ・フェネル・ジェイコブズ  
  スパウティング・ロック・アセット・マネジメント 13.23%
岡田康司 地域経済総合研究所理事長 11.42%
佐伯照道 北浜法律事務所 弁護士 13.22%
岩崎二郎 ルネサスエレクトロニクス社外取締役 25.48%
齊藤誠 弁護士 12.14%
加藤ひとみ ファリア(同)代表社員 18.39%
勝呂文康 (再任)積水ハウス取締役専務執行役員・国際事業担当 6.17%
藤原元彦 タカマツハウス社長 2.02%
山田浩司 北米積水ハウスCEO 2.03%
和田勇 前積水ハウス代表取締役会長兼CEO 6.13%

株主総会は三密(密集・密閉・密接)の最たるもの

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府は4月7日、 東京、大阪、福岡など全国7都市に「緊急事態宣言」を出した。8割の接触減を達成するために、「三密」(密集・密閉・密接)を避けることを求めた。
 株主総会は「三密」の最たるものだ。金融庁や経団連は、株主総会について、延期を含めた柔軟の運用を求める指針を示した。
 積水ハウスは4月15日、こんなリリースを出した。

〈4月23日開催予定の当社第69回定時株主総会の開催場所として「ウェスティンホテル大阪ローズルーム」を予定していましたが、今般、当該ホテルより、同場所の提供が困難であるとの通知を受けました。(中略)できる限りの感染防止策を実施させていただくことを前提として、開催場所・開催時刻を変更し、本株主総会を開催させていただく所存です〉

 「三密総会」はクラスター(感染者集団)が発生する恐れがある。ホテルは株主総会の会場使用を断った。そのため、会場を変更して株主総会を開催する。変更の場所は、積水ハウスの本社も入る梅田スカイビルの35階。その際、感染リスクを低減するために参加株主の人数制限もあり得るとしたことから、和田氏側は緊急声明を出した。

 〈現経営陣は、密閉されたエレベーターに乗らなければたどり着けない35階の、しかも当初のホテル会場よりも天井が低く狭い会場に変更しています。このような会場変更は、株主の感染リスクを高めるものです〉

 和田氏側は4月17日、積水ハウスが23日に予定する定時株主総会を、同日に開催しないよう求める仮処分を大阪地裁に申し立てた。新型コロナウイルスの感染拡大を理由としており、開催延期も可能だと主張した。
総会の開催の中止や延期を法律で強制できるものではない。地裁は4月21日に却下。積水ハウスは4月23日、株主総会を開催した。

(つづく)

【森村 和男】

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