2024年04月20日( 土 )

どうなるこれからの新幹線 計画から50年で開業は半分(後)

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九州新幹線(西九州ルート)のいわゆる「フル規格化」をめぐって、国と佐賀県のつば迫り合いが続いている。西九州ルートは現在、在来線(博多~武雄温泉)と新幹線(武雄温泉~長崎)を乗り継ぐリレー方式で整備が進められているが、国はリレー方式について暫定的な措置であるとして、未着工区間(新鳥栖~武雄温泉)の新幹線整備を求めている。一方、佐賀県は600億円に上る地元負担金、並行在来線の存続などを理由に、フル規格化に反対している。西九州ルートのフル規格化がどう決着するかは、将来の日本の新幹線整備の行方を左右するといっても過言ではない。「西九州ルートのフル規格化がストップすれば、その他の新幹線には手を付けられなくなる」(自民党国会議員)実状があるからだ。西九州ルートを含め、これからの日本の新幹線はどうなるのか。

整備スキーム見直し検討せず

 新幹線を所管する国土交通省鉄道局は、「現時点で、整備新幹線のスキームを見直すことは検討していない」という。新幹線整備にともなう地元負担をめぐっては、過去にもいろいろな地域で不満が吹き出したことがあったが、協議の末合意に至り、開業に漕ぎ着けてきた積み重ねがあるからだ。たとえば、九州新幹線鹿児島ルートでも、「新幹線を鹿児島に通すために、なぜ熊本県が費用を負担しなければならないのか」と熊本県から不満の声が挙がったが、新幹線によるメリットを説いた結果、「最終的には納得してくれた」(同)と指摘する。

 ただ、前述の波床教授(大阪産業大学)は「整備新幹線スキームは、少しずつ変わっている。最初に北陸新幹線に着手したころは、JR負担があった。現行スキームを一切変更せず、将来にわたって整備し続けなければならないわけではない。場所などに応じて、もっと合理的なスキームはあるかもしれない」と示唆する。

 スキームの見直しは、鉄道局という行政機関ではなく、政治マターの話だと思われる。逆にいえば、仮に鉄道局が抜本的に見直しをしたいといっても、政治家が動かなければ、せいぜい小手先の変更で終わるのがオチだろう。

 抜本的な見直しをするとなった場合、考えられるのは、過去に地元負担に応じた自治体からのクレームだ。「自分たちはちゃんと払ったのに、どういうことだ!」――というわけだ。たしかに、制度が変わったとはいえ、同じ新幹線なのにかたや地元負担あり、かたや負担なしでは、バランスを欠く。地元負担した自治体には、負担分を返還するなどの措置が必要になるが、それが政治的、行政的にできるかは不透明だ。

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現行予算枠で375年かかる

 新幹線整備の最大のネックはやはり財源だ。現行スキームにともなう不具合も、元を正せば財源に行き着く。平たくいえば、国費の支出を“ケチる”ためのスキームだからだ。

 鉄道局の新幹線関連予算は、年間800億円程度。基本計画路線の総事業費が30兆円とすれば、約375年分に相当する。過去の実績として、年間2,000億円~3,000億円の建設費が投じられているが、それでもゆうに100年以上要する計算になる。国土交通省では「予算の確保に近道はないと考えており、新幹線の整備による効果をしっかりと把握し、広く訴えかけていきながら、必要な予算の確保に努めたい」としているが、現行の予算枠レベルでは、基本計画にある全路線の実現は夢物語。「予算は国家の意思」という言葉があるが、必要な予算と予算枠の乖離を見る限り、そもそも国家に新幹線を整備する意思がないといわざるを得ない。

 ある有識者は「鉄道局は、鉄道予算の獲得に消極的だ。たとえば、東日本大震災後、他の省庁はこぞって復興予算を取りに行ったが、鉄道局はあまり動かなかった。毎年度の予算は、基本的に前年度踏襲で、予算が増えたとしても新たに予算を取ったのではなく、将来の線路使用料の前借りだったりする。はっきりいって、努力が足りない」と手厳しい。

建設国債30兆円財政破綻はない

 公共事業方式の話に戻る。西田議員は「建設国債を発行し、30兆円ポンと出せば良いだけ」と主張し、次のように指摘する。

 国はバブル崩壊後、不良債権処理を強行したが、これが大きな失敗だった。民間企業の多くはこれに懲りて、『銀行からお金を借りて、投資するのはイヤだ』と考えるようになってしまったからだ。その結果、『民間投資が減っているのだから、国も金を節約すべきだ』という間違った世論が蔓延した。この世論に押されるカタチで、国は予算を小さくした。その波は地方にもおよび、地方経済、財政が疲弊した。
 バブル崩壊以降、国の経済政策はデフレ政策であり、実体経済を見れば、まったくのデタラメだった。日本の再生のためには、デフレ、緊縮政策からの脱却が不可欠であり、脱却するためには、財政出動が必要だ。そのための代表的な例として、全国の新幹線計画を進める必要がある。

 この考えには、ケインズ経済学の流れを汲む「MMT(現代貨幣理論)」をベースにした財政政策理論がある。MMTとは、政府の財政赤字は貨幣(自国通貨建て国債)の発行残高であり、民間(会社、個人)にとっての黒字であるとする、バランスシートの考えがベースになっている。そのうえで、財政赤字の拡大によって国家経済が財政破綻することはない(緊縮財政の否定)とし、経済の制約は財政赤字ではなく、インフレーション(貨幣価値の低下)率だと主張する。

 西田議員は、このMMTの考えに則り、政府が新幹線整備のため、30兆円の建設国債を発行(財政出動)しても、過度のインフレ(たとえば4%以上)にならない限り、国家の財政が破綻することはないと主張しているわけだ。少なくとも、国家が必要な予算をつけない限り、つまり「異次元の財政出動」をしない限り、基本計画路線のある新幹線の実現はおぼつかないことはたしかだ。西田議員は現在、必要な法改正のための活動を行っている。うまくいけば、今年度の政府の「骨太の方針」に盛り込まれる見込みだ。

 ただ、現在のところ、安倍晋三総理大臣や麻生太郎財務大臣などがMMTに与するとは考えにくい。新幹線のための国債発行は、政治的には見通しが立たないのが実状となっている。

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(了)
【大石 恭正】

(中)

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