2024年03月29日( 金 )

新型コロナウイルスで工事現場は変わるのか(後)

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「福岡市地下鉄七隈線博多駅(仮称)工区建築工事」現場
施工者:大成・佐藤・森本・三軌・西光JV
大成建設「個別工事の内容については、通常よりお答えしておりません」
福岡市交通局建設部「国からの指導に則り、アルコール消毒や不特定対数の方が触れるであろう場所の清掃など感染対策を徹底したうえで、工事を進めています。また、ミーティングは1カ所に集まることを避け、場所を分けるようにしています。コロナの感染リスクがゼロになるということはありませんので、緊急事態宣言解除後も、こうした取り組みは続けていく予定です」


 検温や分散朝礼のほかにも、全体での打ち合わせの中止や、週末の事務所閉所、現場への直行、および現場からの直帰を励行する企業が散見された。

 コロナ対策で懸念されるのが、工期へのしわ寄せだ。これに関しては、「発注者との相談になる」場合がほとんどであり、発注者、元請、下請、さらには孫請けまで、多くの企業が関わる現場ほど、調整は困難になる。また、「建築資材の不足を感じたことはないが、一級建築士の数が不足しており、仕事の話がきても対応できないことがある」(設計事務所A)との話も聞かれ、くすぶっていた人手不足の問題が、コロナによって改めてあぶり出されている格好だ。建築物の設計から材料選び、工事監理までを手がける一級建築士が現場に出てこられない事態になれば、工程や工期の変更は免れない。人手不足は一朝一夕に解決できるものではないため、今はコロナの感染拡大リスク低減に注力すべきだ。

 国土交通省では、非対面式のウェブ会議による打ち合わせなど、建設現場における「3つの密」回避に向けた取り組み事例を紹介している。以下、主な事例を紹介する。

朝礼・KY活動における取り組み事例

・朝礼時の配列間隔の確保(作業員間の一定距離の確保[2m程度])
・対人間隔が確保困難な場合などの朝礼の参加人数の縮小など
 (参加者を職長のみとし、朝礼後にグループ別に伝達事項などを共有するなど)
・朝礼時の体温測定など(非接触体温計の活用など)

現場作業や移動時の取り組み事例

・密室・密閉空間での換気や送風機等の使用の励行
 (室内作業や型枠組立、内装工事など)
・車両での移動時の同乗・相乗りを避け、個別の移動を励行
 (現場へ移動するための車両数を増やす、近隣に借地して駐車スペースを確保するなど)
・重機や車両などの操作前の消毒などの徹底
 (ハンドルや操作レバーなどを消毒する、車両運転時にゴム手袋を着用するなど)

変われない工事現場

 人手不足解消策の1つとして期待されていた外国人技能実習生の確保も、今回のコロナによって容易ではなくなった。たとえばミャンマーでは3月18日から、技能実習生を含むミャンマー人労働者の送り出しを一時停止している。また、外国人技能実習生が日本で働く場合に必要となる日本入国後講習や技能検定などの開催も延期となった。予定されていた技能実習生の入国期間が遅れる場合は、雇用契約期間や雇用条件に変更が生じるため、受け入れ企業側は送出機関を通じて技能実習生への説明責任が生じる。また、帰国が難しくなる場合()もあり、在留資格変更の事務手続き、帰国できるようになるまでの生活補償をどうするかなど、解決すべき課題は少なくない。なお、外務省によると、日本に対して入国制限措置をとる国は、5月8日時点で184カ国。一方で、日本が上陸拒否を行う対象地域は87カ国におよんでいる。

※たとえばベトナムはベトナム人であっても、日本から帰国する際にはコロナ陰性の証明書が必要になる。しかし、無症状の人に対してはPCR検査を実施できないため、証明書の発行はできない^

 建設現場には、人手不足とコロナへの対策が残される。最新機器の利用による生産性向上―「i-Construction(ICT土木)」の導入が叫ばれて久しいが、ドローンによる3次元測量や設計図の作成、およびそのデータを基にしたICT建機による自動施工は、まだ一般的とはいえない。コロナに対する危機感の共有に関しても同様で、温度差がある。大丈夫“だろう”と考えているところが大半だ。

 労働集約型の建設業において、マンパワーも重要だが、超高齢化社会においてはベテランの退職と若手の不在は避けられず、外国人労働者とのマッチングも今後厳しくなる。現状、コロナの感染が判明した場合、感染者および濃厚接触者は最低でも2週間は仕事ができない。残された貴重な人材を守り、工事を間断なく続けていくためにも、コロナ対策は必要不可欠だ。一方で、支払い条件が出来高払いの場合、資金繰りの見通しから下請が工事を止められない、余計な労力や費用をかけたくないという事情はあるだろう。しかし、コロナ感染により現場が止まるのと、コロナ対策で一時的に負荷がかかることを比べれば、後者のほうが社会的信用を含めてダメージは小さく済む。

 建設業界に限ったことではないが、求められているのは変わらないための努力ではなく、変わるための努力だ。

【代 源太朗】

(前)

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