2024年03月29日( 金 )

AIやビッグデータで激変するまちづくり~内閣府スーパーシティ構想の行方(後)

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(株)ミチクリエイティブシティデザイナーズ
代表取締役社長 河野 通長 氏

 AI(人工知能)やビッグデータの活用で、まちが大きく変わるといわれている、内閣府の「スーパーシティ構想」を始め、自動運転や省エネ、スマートホームなどの「スマートシティ」のプロジェクトが活発化しているが、まちづくりはどのように変わるのだろうか。スマートシティの業界で動向を見つめ続けてきた、(株)ミチクリエイティブシティデザイナーズの代表取締役社長・河野通長氏に聞いた。

オフィスも病院も学校も 街がボーダレスに

 ――スマートシティで、まちや私たちの暮らしはどのように変わるのでしょうか。

 河野 インターネットでの買い物などが便利になった一方で、人は家から出なくなっています。何もかもインターネットでできると、オンラインでの交流は活発になる一方で、人の動きが消えて、人通りのない閑散としたまちになるでしょう。目的地のないまち歩きのためにつくられた、テーマパークのようなまちもできつつありますが、それは人が住みたいと感じるまちでしょうか。賑わいや人との出会いがあるからこそ、多くの人が「住みたい」とまちに集まります。

 今ではオフィスの仕事は、Wi-Fiやスマートフォンの普及でカフェや自宅、街中のベンチでも可能になりました。東京・日本橋などでは、広く取った歩道のベンチで仕事している人もいます。また遠隔学習ができると、学校外で授業を受けられるようになります。今までは「暮らす場所」「働く場所」「学ぶ場所」「遊ぶ場所」は別々の建物でした。しかし、建物のなかにあったオフィスや病院、学校などの機能がまちに溶け出して、ビジネス街と住宅街も混ざり合い、人の流れも大きく変わるのではないでしょうか。

 AIを活用したまちづくりは話題ですが、漠然とした“ビッグデータの解析”から進んだ議論がなく、まちの課題を「どのようにAIで解決するか」という具体的な話がほとんどないことが気になります。

AI、ビッグデータ活用で地域活性化は実現できるか

 ――これからのまちづくりは、どう変わるのでしょうか。

 河野 たとえばスマートシティの省エネは、売上減になるため、エネルギー業界にはあまり歓迎されません。しかし、11年に省エネなどの目標を発表した米国ノースカロライナ州シャーロット市は、5年後に目標達成しました。電力会社のデュークエナジーの会長に先見の明があったからです。温暖化対策で化石燃料の発電所減少が見込まれるなか、長期ビジネスの展望をもっていました。省エネで当面は売上減ですが、先進的な企業評判も含め、長期的にはプラスになると判断したのでしょう。

 また、大学やテーマパークなど、1つの運営者が管理する場所をスマートシティにするほうが、自治体単位よりもビジネスが成り立ちやすくなります。たとえば、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」では、三井不動産(株)が商業施設や住宅などの運営者ですが、受益者としてコスト減などのメリットを受けられます。

 人口減や高齢化は、全国共通の課題です。郊外にショッピングモールができたまちの中心地再開発も同じでしょう。徳島県神山町や香川県高松市丸亀商店街では、危機感をもった地元住民主体で再開発したからこそ、成功しました。ただし、神山町の大南信也氏のように、意識が高く、皆をリードする中心人物がいなければうまくいきません。

 AIやビッグデータを活用した地域活性化も同じように、ニーズを拾うことのできる現地の人が欠かせず、まちおこしは“人ありき”が課題になるでしょう。

(了)

【石井 ゆかり】


<PROFILE>
河野 通長
(こうの・みちなが)
1948年、東京生まれ。72年に東京大学工学部精密機械工学科を卒業後、(株)日立製作所に入社。生産技術研究所にて産業用ロボット、自動化技術開発に従事。情報システム事業部長や都市開発事業創生プロジェクトリーダーを経て、2010年にスマートシティプロジェクト本部主管技師長に就任。13年11月に日立製作所を退社し、(株)ミチ クリエイティブシティ デザイナーズを設立。代表取締役社長に就任して現在に至る。

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