2024年03月29日( 金 )

杭に関する施工偽装!杭の不適切な切断とデータ偽装!(後)

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 Net I・B Newsでは、愛知県名古屋市営住宅において杭が施工されていなかった事例を報じたが、元杭工事関係者から杭の不正に関する情報が寄せられた。その内容は、「高支持力杭(認定工法)における杭先端の切断」「杭に関するデータ改ざん」である。

既製杭の現場での切断は強度低下につながる

 既製杭は工場で所定の長さで製造され現場に運ばれてくる。杭を埋設する孔を掘削した際に、想定より浅い岩盤や地中障害物などにあたり、所定の深さまで掘削できない場合がある。これを杭の高止まりといい、杭頭を切断し補強を行う場合がある。

 建築物を支える杭は、一般的には、現場で鉄筋コンクリート製の杭を築造する「場所打ち杭」と、工場で生産され 現場に搬入・埋設される「既製杭」に大別される。
 既製杭においては、高い支持力を実現できる認定工法による高支持力杭が増えている。これらの工法は、杭先端部の周囲を球根状に固めて 高い支持力を得るなどの工法があり、認定条件を逸脱しないよう 施工管理においては細心の注意が求められる。

 既製杭の大半はPHC杭・PRC杭などの高強度プレストレストコンクリート杭である。「プレストレスト」とはPC鋼棒にあらかじめ引っ張り力をかけた状態で生コンクリートを流して、コンクリートが固まった後で型枠を外すことにより コンクリートに圧縮力を作用させる製造方法である。

 岡崎市議会の鈴木雅子市議の質問によれば、岡崎市こども発達センターの杭総本数71本のうち11本が高止まりしているが、杭頭ではなく地中である杭の先端部分を切断していたという。

鈴木市議の質問と岡崎市建築局の担当部長の回答
 鈴木市議  :構造計算の変更は?
 岡崎市建築局:変更に該当せず。軽微変更なので計算書不要。
 鈴木市議  :施工記録に杭カットの記載がない。
 岡崎市建築局:記載がない報告書を見た。
 鈴木市議  :先端カットの安全性確認は?
 岡崎市建築局:杭の下部は地震の影響がないのでカットしても問題ない。

鈴木市議の杭頭の切断についての別の杭メーカーへの質問に対する回答。
 杭メーカー:杭の先端をカットすれば杭の機能を果たさない。
       高止まりするのは地中障害物があるから。
       掘削の能力を上げるなどして掘削すべき。
       補強筋が入っている先端部分をカットすべきではない。

 鈴木市議の質問に杭メーカーが答えているように、杭の強度を左右するPC鋼を切断することは非常に危険なことではないだろうか?岡崎市は「杭の下部は地震の影響がないのでカットしても問題ない」と回答しているが、杭先端を切断した上、補強を行っていないのだから、杭全体に亘り地震に対する強度が低下しているのではないだろうか?

 国土交通省「基礎ぐい工事における工事監理ガイドライン」は以下のように定めている。

工事監理者の役割
・工事と設計図書を照合し、設計図書のとおりに実施されていない場合は 工事施工者に、設計図書とおりに工事をするよう求め、従わない場合には建築主へ報告すること。
・工事監理者は、工事監理の方法と結果を適切に記録すること。

 岡崎市こども発達センターの杭工事では、国土交通省「基礎ぐい工事における工事監理ガイドライン」も守られておらず、ずさんな工事が行われていた。

2.横行しているデータ改ざん

 横浜市でマンションが傾斜した問題では、杭を設置する孔を掘削する機械(オーガー)の電流計のデータについて、他のデータを流用していた。地盤が固くなれば多くの電流が必要となるので、電流計のデータを見ることで、地盤の状況を判断する目安となる。
 横浜の事例は、他の電流計のデータを流用していたが、元杭メーカーの技術者だった方からの情報によると、電流計のデータをエクセルで自在に作成しているケースがあるということだった。その他、セメントミルクの流量データの改ざんも行われている。

 この偽装により、ごく少量のセメントしか使用していない事例があり、杭の周囲を固める役割のセメントミルクが要求される強度を有していないとのことである。サンプルの試験に関しても、本来は、現場で採取したセメントミルクのサンプルを検査しなければならないが、実際には 工場に保管されたサンプルの試験データを提出する事例が横行しているという。改ざんを行う理由は、水セメント比を抑えることにより、原価を下げられるからということである。元技術者の方の話では、これらのデータ改ざんソフトが普通に販売されているとのことである。

杭工法の大臣認定においても不正が横行

 杭工法の大臣認定(旧・建設省。現・国土交通省)においてもデータ偽装があったとの告発もある。前述の岡崎こどもセンターで用いられたHyper-MEGA工法も大臣認定工法の1つである。

 大臣認定の試験では、現場で実際に基礎杭を設置し、そのうえに圧力を掛け、どれぐらいの重さまで基礎杭が沈下しないかデータを取る(載荷試験)。
「その耐力データが、現場に仮設した小屋のコンピューター上に出て来るのですが、実は、試験の際にそこにやって来る先生(大学の専門家)に見せるものは、あらかじめ申請以上のデータになるようソフトに入れておいたまったく別もの。載荷試験用機械から送られて来るデータの配線は、そのコンピューターにはつながっていないのです」と証言を得られた。

 電流計のデータ改ざん、セメントミルクの流量データ改ざん、大臣認定の試験における別データの使用と、杭に関して これほどの不正が行われていたとは驚くばかりである。
 杭に関する裏事情については、下記のYouTubeチャンネルにおいて多数の動画が公開されているので、ご覧いただきたい。

YouTubeチャンネル「kcz0888」

 前回伝えた名古屋市営住宅における杭の未施工の問題、今回伝えたデータ改ざんの問題など、建築に関する闇は深く、そして広範囲に亘る。Net I・B News編集部では、今後も杭に関する偽装も含めて、建築関係の偽装に関する記事を発信していきたい。

(了)

【桑野 健介】

(前)

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