国家インフラに「負担金」不可解(前)
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駅アクセス次第でリニアにも課題
遅々として進まない整備新幹線を尻目に、JR東海が手がけるリニア中央新幹線は着実に整備が進んでいるように見える。
リニア中央新幹線は、東京、名古屋、大阪の三大都市圏を結ぶ高い収益性が見込まれる路線だ。車両には超電導リニアを採用し、時速500kmで走行。東京~名古屋を約40分で結ぶ「夢の超特急の再来」へ期待がかかるが、課題もある。その1つは、リニアのウリである時短効果だ。波床教授は、こう指摘する。
スーパーメガリージョンが形成されるといわれるが、その成否はリニア駅までのアクセス次第だ。品川~名古屋の乗車時間が40分なのに、リニア駅まで40分以上かかってしまうと、空港まで行って飛行機に乗るのと同様、時間のロスが大きい。航空機は羽田~伊丹を1時間程度で結ぶが、スーパーメガリージョンは実現していない。なぜなら、それぞれの空港が都心部から遠く、乗車時間に対して、それ以外の時間のロスが大きいからだ。
リニア駅へのアクセスが改善されない以上、恩恵はリニア駅周辺に限られ、スーパーメガリージョンの形成は覚束ない。また、波床教授はJR東海自体が抱える次の問題についても指摘する。
JR東海は、河川水などの問題で静岡県とトラブルになっている。工事の進め方に老練な姿はない。静岡県にとってメリットがないのに、リニアを静岡県内に通すのが間違いであって、ルート設定をミスしたといわざるを得ない。JR東海は静岡県に対して、東海道新幹線の利便性を向上させるなどのリップサービスすらしていない。これでは静岡県もヘソを曲げる。
JR東海はそもそも、兆円単位の大きな工事をこれまでにしたことがない。東海道新幹線は、国が整備したものを完成後にもらっただけだ。JR東海では、技術者など毎年1,000人規模で採用しているそうだが、技術力、ノウハウ不足をどこまでカバーできるかは未知数だ。
JR各社の経営統合、上下分離も選択肢
静岡県などは今年5月、リニア中央新幹線静岡工区有識者会議中のJR東海社長の発言に対し、「地域の水資源や自然環境へ影響を与える事業を行う者としての自覚と責任感に欠ける」として、抗議文を国土交通省鉄道局に送付した。鉄道局はこれを受け、鉄道局長名でJR東海社長宛に、「関係者間の信頼関係がないなかでは、この会議での今後の建設的な議論は期待できない。JR東海には反省を促すとともに、改めて本会議が円滑に進むよう、この会議の趣旨を踏まえて、説明責任者として真摯に対応されたい」などとする文書を送った。
どちらに非があるかについては、ここでは立ち入らないが、静岡県などが「ヘソを曲げている」のは明らかなようだ。「JR東海はビジネスライク」という指摘がある。そういう会社だからこそ、リニア事業を決行できたのだろうが、一方で「新幹線が通るだけの県」に対する配慮のサジ加減を見誤ったと考えられなくもない。
波床教授は、事業環境が異なる大都市の鉄道(JR東日本など)と地方の鉄道(JR四国など)の経営を同列に論じることについて、そもそもナンセンスだと指摘する。
JR北海道、JR四国は経営的に厳しいが、上下分離する道は考えられる。線路などの鉄道インフラは国などが所有、維持管理し、JRは鉄道の運行のみを行う方式だ。
特急などの長距離列車とローカル列車の運営も分離して、ローカル列車の運営は地元自治体などが行うカタチもあり得る。ヨーロッパで実際に行われている形態だ。税金を投入することにより、人口密度が低い地域でも、公共交通を成立させている。そもそも、大都市の鉄道と地方の鉄道の経営を同じ独立採算でやるのは、無理がある。事業環境の根本が異なるからだ。地方は人口が少ないので、運行本数が少なくなる。本数が少ないと車のほうが便利になので、住民はそっちに流れる。多かれ少なかれ、地方の鉄道はどこでもこういう状況がある。
JRの経営形態については、西田議員も「国鉄を7社に分割したのがそもそもの間違いだ。民営化するのであれば、7社のJRの上にホールディングス会社をつくり、経営は一本化すべきだ。また次善策として、JR北海道はJR東日本と、JR四国はJR西日本とそれぞれ経営統合するという選択肢もあり得る」と指摘する。
(つづく)
【大石 恭正】
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