2024年04月20日( 土 )

「妥協はしない」信念が生み出す方程式 「(技)×(美)×(心)=cado」ブランド(後)

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(株)カドー

 高い性能と洗練されたデザインが高い評価を得ている家電メーカー(株)カドー。同社の代表商品の1つである空気清浄機は、国内外から注目を浴びており、2012年に発売した第1号機となるAP-C700シリーズは、AHAM(米国家電製品協会)が定める国際基準CADR(Crean Air Delivery Rate)で日本のメーカーとしては初めての最高値を獲得した。元ソニーのオーディオ開発担当者という異色の経歴をもつ古賀宣行氏が代表を務める同社だが、さまざまな“偶然”によってスタートしている。

空気清浄機との出会い、噛み合った第二の“偶然”

 空気清浄機開発の打診を受けると、古賀氏はすぐに日本に飛び、日本における空気清浄機の「権威」とされる教授と面談、さまざまなレクチャーを受けている。古賀氏は「当時、中国の空気は非常に悪く、空気清浄機は普段から利用していた」とし、常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質VOCの除去についての研究と技術に感銘を受けたという。

 空気清浄機というまったく未知の領域に飛び込んだ古賀氏は、本来の空気清浄機の性能はフィルターで決まり、いかに有害なガスなどを除去するかを重視しているのに対し、日本の空気清浄機はマイナスイオンなどに焦点をあてて開発し、世界的にみて特殊な位置づけにあることを知った。また、新しい技術を商品化するために試行錯誤をし続けられる環境が深圳にあることを再認識することになる。

 古賀氏はこれらの経験から空気清浄機を開発、1号機を3,000台作って販売を始めた。11年ごろに、PM2.5の問題が取り上げられるようになり、空気清浄機のニーズとマッチングした。日系企業に赴任していた知人はPM2.5対策として某メーカーの空気清浄機を利用していたが、効果が追いつかず悩んでいた。そこでカドー製品に変えると「空気が一変した」と喜ばれたという。

 古賀氏は「ものづくりに対する執念、深圳の環境、大学教授からの打診の3つがうまい具合に噛み合った。もしこの“偶然”がなければ空気清浄機をつくっていなかった可能性もある」と語る。

機能・デザインにこだわった商品

デザインの重要性、鈴木氏との出会い

 日本と中国で1号機の販売を始めるにあたり、開発知識・技術の取得も行われた。このとき、古賀氏が感じていたのは、デザインの重要性だった。いくら性能が良くてもデザインが良くなければ売れるものではない。当時は、技術・性能を重視した開発をしており、深圳には、その環境が整っていた。しかし、中国で良いデザインは期待できなかった。当時の中国は、デザインに力を入れる文化があまりなく、値段や実用性に重きが置かれていた。モノをつくるスピードなどは速かったが、デザインのセンスなどは日本のそれとは違いがあった。

 そんなときに出会ったのが、カドーの現副社長である鈴木健氏だ。当時、鈴木氏は個人でデザイン事務所を開業したばかりだった。古賀氏がデザイン性の向上に試行錯誤を重ねている時期に、非常に優秀な若手デザイナーとして知人から紹介された。後にカドーの中核をなす2人が出会ったのだ。

 「私には技術や開発環境があったが、デザイン性に欠けていた。鈴木は1人でデザイン事務所を立ち上げたばかりで、逆に技術がなかった。ここでお互いのニーズがうまい具合にマッチングした」と古賀氏は語る。

 中国で製造し、そのまま販売を行うと中国ブランドの商品となってしまう。そのため、商品の販売は知人が創業した(株)エクレアが行っていた。カドーの前身にあたる企業だ。12年にエクレアの代表取締役社長に古賀氏が就任し、その後副社長として鈴木氏が就任した。そして、事業を本格的に行っていくうえで、技術とデザインは同価値であり、重要であるとし、こだわりを捨てない心が合わさった商品こそcadoブランドであるとした。「(技)×(美)×(心)=カドー」が企業理念の1つとして生まれ、及第点を探す“妥協”をしないと決めたという。

 古賀氏は「私たちは単純にデザイン、性能だけでなく、素材などにも非常にこだわっていて、正直量産には向いていない商品が多い。安く大量に、という時代とは逆行したモノづくりに走っていますから、そこがこだわりの部分でもある。デザイナーとともに創業したメーカーは少ないと思う。私の基本的な考え方は、デザイナーが出してきたデザインの仕様を、できるだけ忠実に再現するのがエンジニアの役割であり、技術屋に求められている部分だということです。そしてデザイナーには、デザインに対し、こだわってほしい。通常は開発とデザインのズレに対し、話し合いを経て変えていき、つくりやすくしていく。しかし、カドーはできるだけあきらめずに要望に応えていく姿勢を保っている。対等の立場で商品化を進めていく」と話す。

 企業に創業のきっかけを聞くと、ほとんどの場合、創業者個人の思いが先行している。一方、カドーは古賀氏のモノづくりへの“執念”から始まり、さまざまな出会いや偶然が重なって生まれている。古賀氏は「1人であればすぐに決定ができて楽な部分もたしかにあると思うが、できないこともある」と語る。この話を聞くと「カドーの創業者は1人ではない」と思わざるを得ない。

(了)

【麓 由哉】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:古賀 宣行
所在地:東京都港区白金台4-2-11
設 立:2011年6月
資本金:4億5,178万円
売上高:(18/12)13億3,206万円

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