2024年04月19日( 金 )

「妥協はしない」信念が生み出す方程式 「(技)×(美)×(心)=cado」ブランド(前)

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(株)カドー

 高い性能と洗練されたデザインが高い評価を得ている家電メーカー(株)カドー。同社の代表商品の1つである空気清浄機は、国内外から注目を浴びており、2012年に発売した第1号機となるAP-C700シリーズは、AHAM(米国家電製品協会)が定める国際基準CADR(Crean Air Delivery Rate)で日本のメーカーとしては初めての最高値を獲得した。元ソニーのオーディオ開発担当者という異色の経歴をもつ古賀宣行氏が代表を務める同社だが、さまざまな“偶然”によってスタートしている。

古賀宣行氏と深圳、最初の“偶然”

12年に発売したAP-C700シリーズ

 (株)カドー創業のきっかけをあえて表現するならば「モノづくり」を続けたかったという一言に尽きるだろう。古賀氏は1980年に大学を卒業し、ソニー(株)に入社。ウォークマンの開発設計者として開発に従事。その後、ICレコーダー 、ポータブルCD、ウォークマン等のオーディオ事業を担当してきた。当時は「黒物家電」といわれる商品で日本が世界を席巻していた時代であり、ソニーを含めた国内メーカーがしのぎを削っていた。

 当時の開発スタイルは、現在のそれとは大きく違ったと古賀氏は語る。「ウォークマンを例に挙げると、5〜6人ぐらいの人数編成で1つのモデルを開発するスタイルでした。比較的少人数のチームごとに開発を行い、プロジェクトメンバーが密に連携を取っていた。世の中に商品として出されると、自分たちの仕事の評価としてはね返ってくる、それを検討・再考して新商品開発やそれまでの商品の改善にフィードバックしていく。つまり、よりユーザーに近い目線で開発を行っていた」。

 しかし、テクノロジーの進歩とともに開発スタイルがデジタル化されていくようになった。それまで5、6人で行っていたものが、いつの間にかソフトウェアを含めて100人以上で開発に携わるようになった。古賀氏はこの開発スタイルを「時代の流れ」と認識し、肯定していた。一方で、ユーザーの“顔”が見えなくなり、自分の担当しているソフトウェアの稼働性など、担当分野のみに焦点を充てるようになったことに違和感があったと話す。事業としての大きな目標よりも、各人が個々の目標を中心に動く。開発の中心人物が「大きなプロジェクトの小さな歯車の1つになる」状況だ。さらにIT機器の進化が急速に進むにつれ、開発規模も同様に拡大していった。

 古賀氏が「モノづくり」の在り方を考えていくうえで、自分のやりたいことと当時の状況に“ズレ”を感じていた。そんななか、2006年に中国・深圳への異動が決まった。「世界の工場」として有名だった深圳は海外から企業を誘致し、優遇処置を設けることで経済活性策を実施、多くの企業が深圳に参入しており、ソニーもその1つだった。古賀氏は責任者として深圳に渡り、開発から製造まで一貫して作業を行える環境に次第に惹かれていった。
 「当時の深圳におけるモノづくりのスピード感とコストパフォーマンスは、日本のそれとは歴然とした差があり衝撃を受けた」(古賀氏)。

(株)カド― 代表取締役社長 古賀 宣行 氏

消えることのなかったモノづくりへの“執念”

 古賀氏によると当時から深圳では、ものづくりに対する効率的な仕組みが出来上がっていたという。「開発企業をサポートするサプライヤーが多くいたが、その技術には目を見張るものがあった。サプライヤーごとの分業性が確立されており、ものづくりにおいて市場としての標準化ができていた」古賀氏は深圳でものづくりに特化した環境に身を置くことになり、「新しいもの」をつくり続ける、挑戦していくチャンスが深圳にあると強く感じていた。

 しかし、10年3月に会社から帰任命令があった。古賀氏は「再び大企業の“組織の一員”に組み込まれるよりも、開発精神というか自分が思うものづくりの原点に戻りたいと思った」と当時の心境を語る。自分が若い時に現役でやってきたことを、今回は経営者という立場でやっていきたいと思ったのが、ソニー退社の第一の動機だった。古賀氏は中国で知り合った実業家と日本で付き合いのあった企業の3社で共同出資を行い、同年4月、中国で合弁会社CTKテクノロジーを設立、ものづくりに対する己の信念を本格的に追求するようになった。

 帰任命令は突然発令されたものだったため、「何をつくるか」については、まったく未定の状態でスタートした。それまでオーディオ関連機器しか開発してこなかった古賀氏だが、ソニー時代と同じものをつくる気はなかったという。「ソニーに対しては今でも感謝の念を忘れていませんし、ソニーが競合相手になるような開発もしたくはなかった」と古賀氏は話す。

 創業当時は、見切り発車だったためオフィスなどはなく、行きつけの日本料理屋を間借りして、何をつくるか思案している状況。そんなときだった。知人を通じ、ある日本の大学教授から空気清浄機の製造の打診を受けたのだ。

(つづく)

【麓 由哉】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:古賀 宣行
所在地:東京都港区白金台4-2-11
設 立:2011年6月
資本金:4億5,178万円
売上高:(18/12)13億3,206万円

(後)

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