2024年04月24日( 水 )

韓国の診断キットに世界がラブコール

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 新型コロナウイルスの感染拡大はいまなお続いており、患者数は全世界で860万人以上となった。そのような中、世界各国から韓国に診断キット購入の問い合わせが相次いでいる。韓国は中国に隣接しているため、早い段階から新型コロナウイルスの拡散を経験した。韓国はそのような状況下で、診断キットを活用し、早期診断と隔離を徹底させることで、新型コロナウイルスの急激な増加を抑え込むことに成功した。

 韓国で診断キットを活用した防疫が可能であった背景には、2015年の中東呼吸器症候群(MERS)の苦い経験がある。韓国政府はMERS終息以降も新型ウイルスに関する国家プロジェクトを継続し、新型ウイルスに関する豊富な経験とデータを蓄積していた。そのような背景から、今回のような診断キットの早期開発が可能であった。また、韓国政府はMERSの経験から診断キットの緊急使用承認という制度を設けており、今回のような緊急事態における早期対応が可能となっていた。この制度により、韓国では新型コロナウイルス患者が発生してから2週間後には公的な承認を受けた診断キット製品の登場が可能となった。計5社が緊急使用承認を受けて量産体制に入り、韓国政府のコロナ対応をサポートした。

 韓国の累積検査件数は150万件を上回っている。韓国の診断キットの安定性に対する信頼感が増したことで、韓国の診断キットが世界から求められるようになった。

 診断キットに注目が集まるようになってから、体外診断用医療機器にも関心が高まっている。体外診断用医療機器には、染色体の突然変異など細胞内部で行われている分子レベルの変化を測定する分子診断と、抗原・抗体反応を利用した免疫化学診断(迅速診断)の2つがある。韓国の体外診断の7割は迅速診断である。

 体外診断用医療機器の活用には各種メリットがある。従来は病院に行き大型医療機器で検査を受けていたが、体外診断用医療機器を活用することで、病院に足を運ばなくても自身で簡単にチェックができるようになり、時間とコストの節約につながる。妊娠診断キットのほか、乳がん、アルツハイマーなどを検査できる診断キットなどがすでに市販されおり、最近では、大腸がんなどを診断できるキットの市販も始まった。従来の医療サービスは治療中心であったが、現在は予防に軸足が移っており、体外診断キットの市場は、今後ますます大きくなるだろう。

 しかし、診断機器の市場は、ロッシュ、アボット、シーメンス、ダナハーなどのグローバル企業が半分以上のシェアを占めている。医療機器市場は、人命にかかわる保守的な市場であるため、良い機器が開発されても、市場に参入することは容易ではない。そのため、グローバル企業との闘いに挑む企業は少なかった。しかし、今回のコロナウイルスはそのような市場にも大きな変化をもたらす可能性がある。

 新型コロナウイルスの診断キットに話を戻すと、診断キットは大きく2種類に分けられる。PCR(遺伝子増幅)検査と、免疫診断キットである。PCR法は、被験者の肺の近くで痰を採取し、特異遺伝子を2つに増幅させる方式である。この検査法は遅くとも6時間後には検査結果が判明する。韓国のシーゼンという会社は、遺伝子を3つに増幅させることにより検査の精度を高めているという。同社は緊急使用承認を申請してわずか1週間で承認を受けたことでも話題となった。

 しかし、PCR法の実施には検査のための設備と人材が必要であり、そのための設備と人材がそろっていない国では、免疫診断キットが求められている。免疫診断キットは、血液でIgG抗体とIgM抗体を同時に診断するのみであり、検査結果は10分後にはわかる。免疫診断キットは、分子診断の一種であるPCR法よりも検査の精度は落ちる反面、検査の費用も時間も少なくて済む。それゆえ、新型コロナウイルスが急激に拡散している地域では、選択できる検査として活用されるのも良い。加えて、綿棒で鼻または喉から検体を採取するPCR法と比べて、2次感染のリスクが少ないというメリットもある。

 そのため、今後は免疫診断キットの需要が大きく伸びる可能性もある。それに、専門家の間では、新型コロナウイルスの波は来年まで3~4回来るという説もある。新型ウイルスが収まったと思っていたのに、再度拡散するということが何回も繰り返されるという嫌な予測である。しかし、相当に説得力のある話だ。

 最後に、韓国の医療の特徴について述べる。韓国では現在もっとも優秀な人が医師になっており、医療チームの質はとても高い。医療保険制度が整っているため、医師は毎日驚くほど多くの患者を診療しているおり、経験も豊富である。もう1つの特徴は、医療のインフラを民間に頼っていることである。医療施設の95%は民間病院であり、民間病院同士でサービスを競っている。

 とはいえ、健康保健制度などの医療政策は政府主導で進められている。今回の新型コロナウイルスへの対応も、政府が主導し民間のインフラが協調するかたちで成り立っている。国の検査費用負担がなければ、誰も検査を受けなかったかもしれない。しかし、早期診断と隔離が大事だと判断した韓国政府は、診断キット緊急使用承認をはじめとして、積極的にすべての政策を有効活用することで、今回の防疫の結果を出したということである。

 従来羨望の対象であった米国、イギリス、フランスなどが、新型コロナウイルスへの対応に苦労しているなか、韓国が迅速な対応で一定の成果を収めたことは世界からの称賛につながっている。今回、韓国の診断方法が国際標準化され、韓国にとっては診断キット分野で従来なかったチャンスが到来しそうだ。

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