2024年04月18日( 木 )

新型コロナ禍対策に見る〈政対官〉〈中央対地方〉の「ちぐはぐさ」の正体(4)

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前衆議院議員 緒方 林太郎

 新型コロナウイルス(COVID-19)についての日本政府や各地方自治体の動きについては、これまでもさまざまな評価があると思います。今回、政治・行政の観点から、自分自身の目に見えていることを取りまとめて寄稿することにしました。なお、私は政治に携わる者であり、立ち位置は現野党に近いですが「批判のための批判」は一切しないようにしています。また、第一次資料に接しているわけではありませんので推測の部分が多いです。ただし、外から見ていて「最もあり得る分析」を書くように努めました。
(※4月30日記)

地方自治体の事情

 地方の側から少し見てみたいと思います。前述の通り、新型インフルエンザ等対策特別措置法においては、都道府県本部長(知事)に大きな権限が与えられています。ただし、今回の一連のプロセスで明らかになったのは県と政令指定都市との関係がうまく整理されていないことでした。たとえば福岡県では県知事が対策本部長ですが、県と対等の権限をもつとされる政令指定都市、福岡市、北九州市との調整にかなりの困難があることが明らかになりました。

 たとえば学校関係です。地方分権が進んだことで、現在、福岡市や北九州市の教育委員会はほぼ県に依存しないかたちになっています(かつては政令指定都市の教員給与は県が支払っていたが、地方分権改革で政令指定都市に移管された)。したがって4月上旬に休校措置の延長が検討されたとき、福岡市と北九州市の市立学校は4月17日まで、県立学校については5月6日までとずれが出ました。

 最終的には福岡県に緊急事態が発令されたので、これらのずれが顕在化することはありませんでした。ただ、この経緯を私なりに追ってみると、県と政令指定都市(とくに福岡市)との行き違い、感情のもつれがあると思います。まず3月末の週末、かなり唐突に県知事が週末の外出自粛を要請しました。政令指定都市への連絡は発表直前だったそうで、これについて福岡市長がかなりの苦言を呈していました。そして、意趣返しのように、休校措置延長については福岡市が(恐らく何の調整もせず)先んじて4月17日まで、と発表しました。しかし、その時点で県知事は緊急事態の調整を国とやっていて、それが当面5月6日までだと知っていたはずです。だから県立学校については5月6日までと決めたわけです。最終的には緊急事態が発令されたことですべての休校措置が5月6日までとなりましたが、その過程で多くの方が振り回されました。今後の課題でもありますが、県と政令指定都市との風通しを良くしなければなりません。

地方自治体の予算事情

 さまざまな対策についても、県と政令指定都市との関係が反映されています。大阪府においては、知事と政令指定都市の市長が同じ政党に属していることもあいまって、さまざまな休業対策の予算負担を県と市町村で折半する体制が整いました。逆に福岡県においては、福岡市→北九州市→福岡県の順番でそれぞれに若干ずれのある対策が打たれることになりました。新型インフルエンザ等対策特別措置法では県知事に権限を集中させていることは前述の通りですが、具体的なところではまさに「風通し」と「調整」が重要であることを示唆する話だろうと思います。

 今回の諸対策では、各自治体の財政事情が大きく反映されたように思います。漠然とした印象論として「大都市である福岡市が最もゆとりがあるのではないか」と思う方が多いでしょう。しかし、実際の指標を見ると少し風景は異なります。

 十数年前くらいの財政の指標を見ていると、福岡市は借金の重さ(将来負担比率)が極めて大きく、貯金(財政調整基金)の額も少ないという状況でした。財政面ではとても「優等生」とはいえない数字です。そこから福岡市は借金の総額を減らして貯金を増やし、着実な財政改善を進めたことは指標の数字を見ていればよくわかります。人口の増えているまちではあるものの、財政改善は基本的に「削る」話ですから決して楽な作業ではなかったと思います。今回、休業補償などで福岡市が全国に先駆けて独自対策を打ったのは、市長個人のキャラクターもあるとは思いますが、それを支える財政健全化の歩みがあったからだということは特記しておくべきでしょう。

 逆に福岡県の状況は厳しいものです。十数年前は福岡県と福岡市の借金の水準は同じくらいでしたが、福岡市が改善するなかで県は目立った改善が進みませんでした。今回の経済対策(補正予算)で、県は貯金の額が少ないため、残り少ない38億円の貯金を19億円取り崩すだけでは足らず、将来の借金返し用資金(減債基金)144億円を76億円取り崩します。福岡県はCOVID-19発生前からこの減債基金の積み立て不足が700億円以上ありますが、それがさらに増えることになります。これらはすべて将来への付け回しです(つまり減債基金は「財源」ではない)。福岡市が250億円近い貯金から繰り入れることで対応したのとは対照的です。

 自治体の財政がどのような状況にあるのか、普段はなかなか意識されない方が多いでしょう。実際、そんなことを意識しなくてすむような状況をつくるのが政治だと、私は思っています。ただ、現状は相当に意識せざるを得ません。

経済活動への懸念

 最後に国の予算や経済のことについても少し触れておきたいと思います。前述の通り、自治体のなかには貯金をほぼ使い果したところも出始めています。そういう自治体は、第2弾、第3弾の補正予算が講じられても、地方負担が必要な補助金等を受けきれない可能性が高いです。そこは今後の予算編成のなかでとても重要な論点になるでしょう。

 また、第1弾の国の補正予算を見ながら2つのことを感じました。1つ目は「火事場泥棒」的な予算が多いことです。COVID-19対策とまったく関係のないものがかなり入っていました。こういう時には対策に集中すべきであり、対策との関係で緊要性のないものは徹底して外すべきです。限られた財源を有効に使う視点が強く求められます。これは地方自治体でも同じです。

 2つ目は「国の財政がとてつもなく厳しくなっている」ということです。今回、安倍首相は〈事業規模〉が110兆円を超えることを強調していましたが、あれは裏を返せば真水で投じることのできる金額に注目が集まらないようにしたということです。野放図な対策は国の財政のフレームワークを崩壊させかねません。現時点で「財源」の話をすると嫌われることをあえて承知のうえで述べれば、急速に悪化する財政状況を放置しないためにも財源探しは絶対に避けて通れません。東日本大震災については復興所得税が設けられましたが、今回はさらに規模が大きいため所得税では対応できないでしょう。

 本稿を読まれる方のなかには、さすがに「国債を発行して、それをすべて日本銀行が買えばいい」といった論で安堵する方は少ないでしょう。国の財政がデフォルト状態になる危機の度合いは少しずつ上がっています。私はその判断のカギは「長期金利」だと見ています。リスク・プレミアムが付いて金利が上がり始める時が最も危ないと思っています。

 そして各自治体に目を向けると、「国費で付いた予算をフル活用する」という視点を大事にしてほしいと思います。各自治体によって振れる袖の長さは異なりますが、だからこそ国費100%で講じられている(つまり自治体負担がない)給付金、融資、助成金等を必要な方に遅滞なく届けられるような態勢を整えるべきです。

 ここでのカギは「窓口業務」です。政府で用意しているメニューは多種多様なため、資料をすべて読みこなしてどれが自分に適しているかを判断するのはかなり難しい作業です。しかも、国、県、市町村でそれぞれの対策が打たれている所では縦割りが生じる可能性も高いです。困っている事業者や個人の方はスピードと予見可能性を求めています。だからこそ、手続関係の煩雑さで心を折って諦める人が出ないようにしなくてはなりません。ワンストップサービスをできるだけ充実させる必要が高まっています。たらい回しをつくらないためには窓口業務の徹底的な強化が必要です。ここは各自治体の「腕の見せどころ」だろうと思います。

すべての国民がディフェンダーに

 今回の対応のうち、政治・行政面に注目して批判的な観点から私見を述べました。本稿を書いている時点で、少し改善の兆しも見え始めています。しかし、この新型コロナ禍は中期戦から長期戦になっていきます。「私は感染しない」、これはあり得ません。「私は大丈夫(発症しない)」、それは正しいかもしれませんが、そんなあなたが感染を拡大するクラスターをつくるかもしれません。すべての国民がディフェンダーになる気持ちが必要だと思います。

 現在、新型コロナ禍の拡大阻止に関わるすべての方の献身的な努力が続けられています。医療関係者、ビジネス関係者、官僚、そして何よりも日本人の封じ込めに向けた努力は世界に冠たるものだと確信しています。

(了)


<プロフィール>
緒方 林太郎(おがた・りんたろう)

1973年北九州市八幡西区生まれ。福岡県立東筑高校を経て東京大学入学。94年に東京大学法学部を中途退学、外務省入省。2005年外務省退職。09年衆議院議員初当選。14年衆議院議員2期目当選。17年落選。

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