2024年04月23日( 火 )

働く場所への脱皮を図る唐津市~「唐津コスメティック構想」実現に向けて(前)

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城下町の面影残す観光地

 JR筑肥線・唐津駅は、福岡市地下鉄を通じて福岡市内都心部までは直通で行けるものの、片道1時間以上かかり、通勤を考えるとあまり現実的とはいえない。唐津駅から唐津市内への移動に関しては、昭和バスが交通網を形成しているが、時間的制約を考えれば、自家用車は必須だ。同駅を起点とした市内外への移動に焦点を絞ると、不便と感じるかもしれない。では、同駅周辺エリアの住まう場所としての評価はどうか。

唐津駅前

 唐津市内の家賃相場は1Kで4.45万円()。唐津駅周辺エリアでは同じく1Kで3~5万円と、市の相場感から大きく逸脱しているわけではない。地価は、2019年の平均価格で5万2,350円/m2となっており、佐賀県全体の価格と見比べてみても決して安いというわけではなく、相応のエリアブランドを構築しているといえる。

 唐津駅周辺は自然環境や買い物環境も良く、同駅東側のガード下には屋台が連なる屋台街があるほか、京町商店街、呉服町商店街、中町商店街の3つの商店街があるなど、食と買い物には不自由しない。唐津駅から市の象徴である唐津城までは徒歩20分程度。道中はかつての城下町の面影を残しており、同駅周辺エリア全体が観光地といった趣がある。

 市外への通勤を考えると、交通アクセスは決して良いとはいえないが、市内に職場があり、自家用車を所有している場合は、唐津駅周辺エリアは十分生活拠点となり得る。駅北西側の坊主町や駅南側の町田などでは住宅街が形成されており、ファミリー層の定住が進んでもおかしくない環境だ。しかし、市内での映画館やフードコートなどの家族連れで楽しめる遊興施設の不足もあって、唐津市内の定住人口は減少傾向に歯止めがかからない状況にある。定住人口の増加に向けて必要不可欠な、働く場所の確保という課題への解決策として期待されるのが、「唐津コスメティック構想」だ。

※:不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」より^

化粧品産業の集積地へ

 唐津市では12年から、市を化粧品産業の集積地にすることで地域の活性化を図る「唐津コスメティック構想」に取り組んでいる。実現に向けて、産学はもちろん世界最大規模の化粧品産業集積地「コスメティックバレー」を有するフランスとも連携。地域資源を生かした化粧品開発・販売や、それにともなう雇用創出を通じて、人材と技術の交流拠点としてのブランディング、グローバル市場への展開を目指している。

 唐津市には化粧品の原料となり得る多様な植物が自生しており、それらを栽培可能な農地も十分にある。また、国内では数少ない薬用植物栽培研究所が隣の玄海町にあり、生産拠点としてのポテンシャルは申し分ない。化粧品の製造や品質検査を行う企業、輸出拠点となる港がすでに整備されていたことも、市の取り組みに有利に働いている。

 シャネルSA、クリスチャン・ディオールなど、世界的に有名なブランド化粧品を生み出したフランスとの協力体制の構築は、唐津市のポテンシャルを最大限生かすために必要不可欠だ。化粧品輸出額世界一のフランスは、年間の製品出荷額が2兆3,000億円を超える。その実績を支えているのが「コスメティックバレー」だ。仏中部の都市シャルトルを中心とした半径約150km圏内に7大学と約200カ所の研究機関が集約されており、約8,000人の研究者が在籍。化粧品関連企業も約800社あり、約7万人分の雇用を生み出している。

 化粧品産業は地域活性化につながる―「日本版コスメティックバレー」創設の背景にあるのは、フランスという成功事例の存在なのだ。

(つづく)

【代 源太朗/小山 仁】

(後)

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