2024年04月20日( 土 )

【凡学一生のやさしい法律学】関電責任取締役提訴事件(6)弁護士という権威を借りて主張を押し切る「ヤメ検」

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 「ヤメ検」は法律の専門家だから、「違法」認定の専門家である。通常は「違法」といっても、具体的な法令の具体的な法律要件に違反する場合と、抽象概念として規定された規範に違反する場合とがある。後者で有名なのが、「信義誠実の原則違反」や「公序良俗違反」だ。
 さてこの「ヤメ検」専売特許の「違法性阻却論」が生まれた具体的事案について、言及しなければならない。元東京都知事の舛添要一氏は、正月元旦に有名リゾートホテルで開いたとされる秘書らとの政策会議に関し、同じホテルに家族も宿泊し、その費用が一括して政治資金から支出されたため、政治資金の私的流用の疑惑が問題化した。

 そこで、舛添氏は個人的費用を負担して2名の「ヤメ検」に「法律診断」を仰いだ。そこで出現したのが、法律家も今まで耳にしたことがない「不適切であるが違法ではない」という有名命題である。筆者はこの命題の出現を、「中世の免罪符の再来か」と感じざるを得なかった。その後、この命題は「ヤメ検」によって濫用されるのだが、誰もこの命題の「背理性」を指摘するものはいない。このままだと善良な国民も、この命題を正当な論理と受け入れてしまう。とんでもないことである。以下で、説明していく。

 「違法性判断」は、違法か合法かという二者択一の判断である。一方、「不適切性判断」は、法を含めた道徳的、倫理的な膨大な規範・価値基準に関する程度を測る概念であり、かつ、違法性判断ができる場合には除外される概念である。つまり、「違法性判断」と「不適切性判断」自体が二者択一関係にある。
 これを包含関係(ベン図)でいえば、両者は部分的に交わる2つの独立円であり、交合重複部分は、「違法でありかつ不適切」という場合である。「ヤメ検」がいう「不適切であるが違法ではない」という場合は、不適切円の交合重複部分を除いた残りの部分に舛添氏の疑惑行為が含まれるという主張になる。

 つまり、論理的には、「違法行為」の範疇に入らないという主張である。違法性の判断の専門家が違法性の判断をそっちのけにして、道徳性や倫理性を含めた不適切性の判断をしたことになる。そして肝心の「なぜ違法行為ではないのか」という理由をまったく無視し、黙殺した。「ヤメ検」が合法だと判断した理由こそ、世間に開示すべきだが、弁護士という権威を使って押し切っている。これが、「ヤメ検」の「権威主義的背理論」の正体である。

 単に「違法ではない」といえば、必ずその理由が求められる。そこで、あたかも違法ではない理由が、単なる不適切であるかのごとく「命題」を考案した。これもまた、「不適切」という概念が、茫漠たる抽象概念であることを悪用した「抽象概念濫用論」にほかならない。

(つづく)

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