2024年04月19日( 金 )

朴ソウル市長の死去で大きく揺れる韓国社会(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

セクハラ犯罪とその疑惑で終わる政治生命

 そのような状況下で、2年ほど前に、韓国の大統領有力候補として名が挙がっていた安照正前忠南道知事の性的暴行事件は、多くの国民に失望とショックを与えた。当時韓国では、セクハラや性犯罪を社会に告発する「Me Too運動」が広がっていた。女性秘書が、安氏から性的暴行を受けたことを検察に告白し、現在安氏は服役中である。これで安氏の政治生命が終わったのは、いうまでもない。

 ところが、今年4月には韓国第2の都市である釜山市の市長の呉巨敦(オゴドン)市長も、面談中に職員に不必要な身体接触をしたため、辞任させられた。呉市長は、政治家として安氏ほどの知名度はなかったものの、保守的な釜山市で与党候補として市長に当選し、期待を集めていた人物だ。

 今回は韓国の首都ソウルの市長で、与党の次期大統領候補の1人として名が上がっている朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長のセクハラ疑惑の急浮上と死去で、ソウルは騒然としている。

 朴市長は、2011年の市長選で初当選し、3期目だった。現在与党である「共に民主党」所属で、次期大統領候補に名前が挙がっていた。事件が起きた9日、朴市長はなぜかすべての予定をキャンセルしていた。同日午前10時44分、黒い登山用服に紺色の帽子をかぶり、リュックサックを背負って鍾路区嘉会洞(チョンノグ・カフェドン)のソウル市長公邸を出る朴市長の姿が確認されている。

 朴市長は市長公邸を出たまま、行方不明になっていたが、9日午後、警察は、朴市長の娘から遺言のような言葉を残して父が家を出たという通報を受けた。その後、警察は捜索を始め、捜査から7時間後の10日午前零時ごろ北岳山(プクアクサン)のふもとで、朴市長の遺体が発見された。

 監視カメラや携帯電話の追跡を通じて嘉会洞の市長公邸から約1.7km離れた臥龍公園で、朴市長の最後の痕跡を発見し、警察は捜索を始めたという。ソウル大病院で朴市長の死因を調べているが、他殺の痕跡は見つからないという。

朴市長の謎の死の原因~死をもって責任を果たそうとしたのか?

 朴市長は1956年慶尚南道昌寧(キョンサンナムド・チャンニョン)で生まれ、市民運動にも参加し、人権弁護士としても活動した。1994年には市民団体「参加連帯」の設立に貢献し、2011年にソウル市長に当選し、政界入りをはたした。人望が高く、フェミニストとしても有名であった。

 朴市長は普段押しの強い人ではなかったので、今回のセクハラは市民にとってショックがより大きい。朴市長が残したという遺書は公開されているが、遺書には「すべての人に申し訳なく感じ、人生をともにした人々に感謝している。家族にはお詫びしたい」などと記してあったという。しかし、朴市長の死去前にセクハラ疑惑が急浮上していたのも事実である。被害の女性は、鍾路警察署に朴市長からセクハラを受けたと告訴状を出していたという。

 なぜ朴市長が死を選んだのかは、まだ解明されていない。被害者の女性の主張によると、朴市長は女性秘書にセクハラを続けていたという。セクハラの事実が発覚しそうになったため、朴市長は自殺を選択せざるを得なくなったのか、いまだに死の原因は究明されていない。大物政治家の立て続けのセクハラ疑惑に、韓国社会が大きく揺れている。社会の指導者である政治家の性意識を、新たにする機会になるだろう。死をもって自分の責任を果たそうとする朴市長に対して、市民はどのような判断を下すのだろうか。

(了)

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