2024年04月20日( 土 )

「海抜ゼロm」「木密」対策~大都市・東京の整備計画とは(2)

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首都圏外郭放水路の全体イメージ図

激化する豪雨対策

首都圏外郭放水路の調圧水槽

 昨年の台風19号では、荒川の下流で洪水対策として12年ぶりに岩淵水門を閉鎖し、隅田川の氾濫を防いだ。荒川下流部での洪水や高潮を防ぐため、関東地方整備局(以下、関東地整)荒川下流河川事務所は2020年度に約78億円の治水予算をかけて、京成本線荒川橋梁架替や、堤防高の30倍幅で盛土して大規模洪水による決壊を防ぐ高規格堤防や高潮堤防の整備など18カ所で対策を行っている。

 江戸川では、関東地整江戸川河川事務所が約133.8億円(2020年度)の予算で、氾濫リスクが高い区域の堤防強化や堤防拡幅、河道掘削を行うとともに、下流部では高規格堤防の整備を行っている。また、地底50mを流れる世界最大級の地下放水路である首都圏外郭放水路(埼玉県春日部市)が、江戸川、荒川に囲まれ、土地が低く水が溜まりやすい地形となっている中川流域の洪水を取り込んで江戸川に流し、浸水被害を軽減してきた。

 中川流域は、江戸川、荒川に囲まれ、土地が低く水が溜まりやすい地形となっているが、台風19号では首都圏外郭放水路(庄和排水機場)が約1,218万m3、三郷放水路(三郷市:三郷排水機場)が約3,274万m3などの域外排水を行うことで、中川・綾瀬川流域の浸水被害を、同規模の降水量だった1982年9月の洪水と比べて約9割軽減させた。

 台風19号により二子玉川(世田谷区)や武蔵小杉(川崎市)で浸水被害を出した多摩川では、国、都、県、市区などが連携して「多摩川緊急治水プロジェクト」(19~24年度)を策定。災害復旧や河道掘削、樹木伐採、堰改築、堤防整備など約191億円の予算で、河川の治水対策を行っている。「この河川の治水対策により、田園調布付近で約40cmの水位低下を見込んでいる」(京浜河川事務所)という。

 ゲリラ豪雨が頻発する23区などでは、大きな被害が懸念される神田川や目黒川など中小河川の9重点流域を東京都建設局が整備している。「川沿いにビルが建ち並ぶ場所などでは、川幅の拡幅や河底を掘り下げる河道整備に時間がかかる。そのため、短期間で整備できてゲリラ豪雨に大きな効果を発揮する調節池や分水路の予算配分が増えている」と建設局河川部中小河川計画担当は話す。

 中小河川では豪雨時、28調節池で総貯水量256万m3のストックが可能だが、隅田川の支川にあたる神田川、白子川、石神井川を結ぶ環状七号地下広域調節池(練馬区、中野区)を拡大し、増水した川の水を取り込み、洪水被害を減らす計画が進められている(全長5.4km、整備規模:約68.1万m3、25年完成予定)。建設局では20年度に411億円の中小河川整備予算で、川幅を広げるなどの河道整備に加え、上記含め7調節池と1分水路を整備しており、25年度までに約110万m3の新たな取水を可能にする見込みだ。

(左)首都圏外郭放水路の第5立坑(流入状況) / (右)大島川水門(江東区)

東部の高潮対策

 東部低地帯では、高潮や地震津波のリスクが大きいため、防潮堤や水門、護岸などの整備、耐震化が進められてきた。高潮対策では、防潮堤や護岸の計画延長約168kmのうち95%が完成。東日本大震災の翌12年から、22年度の完了に向けて堤防約86kmの耐震対策、水門や排水機場など22施設の耐震・耐水対策が行われてきた。低地河川の高潮・耐震対策予算で約394億円(2020年度)を見込む。また、隅田川など東部低地帯の主要5河川では、堤防の陸側に最大幅50mの盛土をして地震に対する安全性と親水性などの河川環境の向上を目的とした「スーパー堤防」を整備している。

 約300万人が暮らす東部低地帯では、これまで多くの水害が発生してきた。「満潮位より低い、いわゆるゼロメートル地帯は、洪水、高潮などの自然災害に対して弱い地域のため、防潮堤や水門などの整備を進めており、近年は洪水や高潮による被害はほとんど起こっていない」(建設局河川部低地対策)という。

(つづく)

【石井 ゆかり】

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