2024年03月29日( 金 )

コロナ禍に揺れる新大阪駅~都市機能不足、リニアにも暗雲(後)

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 リニア中央新幹線の開業を見据え、新大阪駅周辺(十三、新大阪、淡路)の再開発の機運が高まっている。新大阪駅周辺エリアは2018年8月、国の「都市再生緊急整備地域の候補となる地域(候補地域)」に指定。20年3月、国や大阪府市らで構成される地域検討協議会は、「中間的コンセプト」として、「まちづくり方針の骨格」をとりまとめた。20年度以降、まちづくり方針を策定し、都市再生緊急整備地域の指定を受ければ、めでたく再開発プロジェクト始動という運びになる。今回、この骨格なるものをベースに、新大阪駅周辺のまちづくりの行方について考察してみた。

西の新幹線ハブ駅化?

 骨格に関してはもう論ずることがないので、地方創生回廊中央駅構想について見ていくことにする。この構想は国土交通省生産性革命プロジェクトの一環として、18年に打ち出された。駅の容量が逼迫している新大阪駅について、新たに地下ホームを整備し、既存路線の容量を確保するほか、現在建設中のリニア中央新幹線や北陸新幹線のホームも確保することで、生産性の向上を図ることを目指すものだ。新大阪駅を、東京駅と並ぶ西の新幹線ハブ駅化と位置づけている。こちらは19年度に予算化され、すでに具体的な内容の検討に入っている。

 新大阪駅には現在、東海道新幹線、山陽新幹線、九州新幹線(鹿児島ルート)の3つの路線が乗り入れている。ホームは5面8線。JR東海とJR西日本が共同で運用しているが、山陽新幹線の発着は20番線に集中しており、さらなる増便が難しい状況にある。ここに新たに九州新幹線(西九州ルート)、北陸新幹線、リニア中央新幹線の3つの路線が加わると、運用面で支障をきたすことは明らかだった。地下ホームが整備されれば、新たな3路線の発着を始め、既存路線の増便も可能になる。なぜもっと早く着手しなかったのか不思議なぐらいだ。

 地下ホーム着手が遅れたのには、もちろん財源確保の問題もあっただろうが、不確定要素があまりにも多いことが原因だったと思われる。西九州ルートを見ると、今になっても、新大阪駅に直通するかさえ決定していない。リニア中央新幹線も同様だ。北陸新幹線については、新大阪駅接続自体は決まっていたものの、17年までルートが確定しなかった。

コロナ禍で阿鼻叫喚

 ところが、ここにきて新たな状況変化が発生した。コロナ禍によって、JR各社の新幹線の乗降客が大幅に減少したのだ。緊急事態宣言発令中の新幹線乗客数は、軒並み前年度同月比80~90%減となり、各社は減便を実施した。もちろん、コロナ禍が去れば、乗客数は回復するだろうが、増便が必要になる水準にまで戻るとは考えにくい。「新しい生活様式」に照らせば、新幹線利用は避けるべきリスクでしかない。あるJRトップは「(乗客数は)コロナ以前には戻らない」といったそうだが、その発言の意味は重い。

 つまり、日本の鉄道会社は、コロナ禍で厳しい経営環境に陥っており、新大阪駅のハブ化どころか、既存の新幹線(在来線含む)の維持すら危ぶまれる現状にあるわけだ。3分おきにのぞみを発着させても、需要がないのでムダ。新幹線がガラ空きなのに、リニア中央新幹線を通すのはムダの骨頂―という話が現実味を帯びつつある。コロナ禍によって、日本の社会構造はすでに変わってしまった。余儀なく変わったものだとしても、もう元に戻ることはない。なぜなら、国民の意識そのものが変わったからだ。

 新大阪駅周辺の都市再生緊急整備地域は、候補地域のまま残り続けるだろう。仮に、コロナ禍によって何の予測もできない状況下にもかかわらず、よりによって海外から企業や人を呼び寄せるために、新大阪駅周辺を緊急に整備する必要性を説いたところで、おそらく「意味あるの?」と一蹴されて終わりだからだ。

(了)

【大石 恭正】

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