2024年04月20日( 土 )

本格的な規模競争がみえてきた~セブン&アイの米スピードウェイ買収(後)

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数兆円のM&Aは珍しくない

 セブンイレブンは今回の「スピードウェイ」買収により、既存の9,631店に加えて、自社がカバーしていない地域の3,900店舗を手に入れる。売上でみると、既存の361億ドルに286億ドルが加わる。店舗数でいえば、全米のコンビニ約15万店のうち9%に過ぎないが、これを契機にしてさらなるM&Aの展望も開ける。

 アメリカの場合、数兆円規模のM&Aは珍しくない。アメリカではどの業態も中小企業が淘汰されており、自社と企業規模がそう変わらない企業がM&Aの対象になるからだ。

 ドラッグストアを見るとそのことがよくわかる。M&Aを繰り返してきたウォルグリーンの売上は1,300億ドル、CVSヘルスは1,409億ドルだ。全米ドラッグストア市場額の2,960億ドルのうち、この2社で市場の90%を占有している。この状況ではこの2社以外でM&Aのやりようがない。まさに「小売業の将来図」を象徴するような現象だ。これと比べると、アメリカのコンビニ業界はいまだ群雄割拠の状況にあると言っていい。セブン&アイは、その事情を見込んで思い切って投資するのだろう。

 手に入れた新拠点での得意とするデリカ分野の充実や物流効率化による収益性向上の試みは、セブン&アイにとってあくまで二義的なものだ。同社の「絶対的な市場を手に入れるまで拡大を試みる」戦略は、イオンの戦略にも通じる。小売業は、ある程度まで規模が巨大になると、後退は不可能になるということだ。

デリカ系の売上が15%に満たない米コンビニ

 しかし、今回の「スピードウェイ」買収の戦略はいいとして、戦術の面で見るといささかの不安が残る。
 アメリカのコンビニの顧客は、商品に大きなこだわりはなく、給油ついでに小腹を満たす感覚で食品を買い、スーパーマーケットに行くほどもない程度の非食品を手に入れるのが普通だ。

 同じセブンイレブンでも、日本の店舗では付加価値の高いデリカ系の売上が30%を越しているのに比べて、アメリカの店舗でのそれの売上は15%に満たない。ガソリンを除く日販が日本より10万円低いのは、そのことが原因でもある。

 比較的単価の高い惣菜の需要を、日本のようにうまく取り込めるだろうか。一方で、ガソリン販売は収益の小さくない部分を占めるが、最近はその需要もいささか頭打ちであり、今後の大きな伸びも期待できない。

 これらの状況を考えると、今回のM&Aは全米のコンビニの大部分を占める中小コンビニの統合という将来を見据えた大規模な戦略に主眼を置いたものであるのかもしれない。そう考えると、一見過大に見える今回の2兆2,000億円の投資も不思議なものではない。「虎穴に入らずんば、虎子を得ず」である。

(了)

【神戸 彲】

(前)

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