2024年04月19日( 金 )

【川辺川ダムを追う】川辺川ダム建設中止、決めたのは誰だ?(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 「令和2年7月豪雨」により、熊本県南部を流れる球磨川が氾濫し、流域市町村で死者65名、9,000棟を超える家屋被害が発生した。球磨川は過去に何度も氾濫を繰り返してきた“暴れ川”だが、記録が残るなかでは、今回が過去最大級の水害だといわれる。球磨川の支流である川辺川では、1969年以降、総貯水容量1.3億m3を超える治水ダム「川辺川ダム」の建設が進められていたが、2008年に蒲島郁夫熊本県知事が「ダム建設計画の白紙撤回」を表明。09年にダム建設中止が決まった。

 以降12年間、国や県、流域市町村などは「ダムによらない治水」をめぐる検討を続けてきたようだが、実際に有効な治水対策が講じられることはなく、今回の水害を招いた。「ダム建設中止は、政策判断として正しかったのか?」「ダムによらない治水とやらは、なぜ実行されなかったのか?」「水害後も治水政策は変わらないのか?」――などいろいろと疑問が湧く。今回の水害を機に、川辺川ダム建設中止をめぐるこれまでの経緯などを追ってみた。

相良村を流れる川辺川。まだ白濁しているが、水量はかなり減っているようだ
(上流を望む、8月上旬撮影)

地形的に氾濫しやすい暴れ川・球磨川

 球磨川は、その急峻な流れから日本三大急流の1つといわれる。流域に降った雨は球磨川に注ぎ込み、人吉盆地(人吉市、球磨村など)を経由して八代海に抜けるが、大雨になると盆地に水が滞留し、氾濫を起こす。地形的に氾濫を起こしやすい“暴れ川”だ。球磨川の氾濫については、江戸時代から多くの記録が残っている。大正期以降は10年ごとに氾濫を起こしており、平成の中ごろには、毎年のように氾濫した時期もある。その一方で、流域の農業、生活を支える命の川であるとともに、江戸時代の舟路開削工事によって、交通、物流を支える水運ルートも担ってきた。球磨川の舟下りは、観光の目玉の1つにもなっている。

 球磨川の氾濫の歴史のなかでも、1965年7月に発生した「昭和40年7月洪水」は、治水関係者にとって、大きなインパクトを与えた。この洪水により、人吉市内の約3分の2が浸水。1,281戸の家屋が損壊、流失するなど大きな被害が出た。この水害を教訓に、球磨川流域に新たな治水ダムを建設する機運が醸成された。

川辺川ダム位置(国土交通省資料より)

 国(当時の建設省)は69年、熊本県の要望を受け、球磨川支流の川辺川でのダム建設をスタートした。川辺川は、球磨川の上流を流れる支流で、アユやヤマメが泳ぐ日本有数の清流として知られる。

 ダム型式には、アーチ式コンクリートダムを採用。堤高は107.5m。総貯水容量は約1億3,300万m3で、その規模は福岡県内最大の総貯水容量をもつ五ケ山ダム(総貯水容量約4,000万m3)の3倍以上だ。59年に竣工した市房ダムと合わせ、ピーク時には球磨川(人吉市人吉地区)への流入水量を7,000m3/秒から4,000m3/秒へ軽減することを目的に建設計画が進められた。

 この7,000m3/秒は「昭和40年7月洪水」時の最大流量5,700m3/秒(人吉地区)を前提にしている。つまり、既往最大流量を確実に食い止めるため、7,000m3/秒という数値を設定したうえで、そのうちの3,320m3/秒分を川辺川ダムで食い止め、人吉盆地の氾濫を防ごうという計画だったわけだ。ちなみに、水位でいえば約2.5m(人吉市街地)分の低減効果があるらしい。

 国は事業着手後、水没予定地の五木村での用地取得や家屋移転、代替地確保などの生活再建に関する交渉、ダム関連工事などを段階的に実施していった。肝心のダム本体工事着工の調印に漕ぎ着けたのは、96年。この時点で、着手からすでに27年の年月が流れていた。2007年、やっとダムを含む球磨川水系河川基本整備方針を策定。計画当初、川辺川ダムは治水のほかに農業用水や水力発電も担う多目的ダムだったが、計画から月日が流れるなかで、灌漑や水力発電としての利水が相次いで見送られ、治水専用となった。

 ダム水没予定地である五木村では、ダム建設にともない、頭地大橋を含む新たなアクセス道の整備、村役場などの公共施設、水没家屋の移転、新たな水源の確保、代替農地の整備などの生活基盤整備が進められていた。なお、これらのダム関連事業は、ダム建設休止後も、残事業として引き続き実施されている。

(つづく)

【大石 恭正】

(2)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事