2024年04月23日( 火 )

【寄稿】張りつめた糸が切れる時 少年犯罪の現場から

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自衛の為に刃物を携帯?

 2020年8月28日、福岡市のMARKIS福岡ももちで発生した事件について、どちらかへの偏りを抑えて考えてみると、本件15歳の少年がいかなる人物なのであろうかを考えるとき、どなたも2つの見方から発想されることでしょう。

 1つは、ごく普通の少年、もう1つは、精神の疾患、この2つからではないでしょうか。私はあえて、この2つを別々に切り離しては考えず、誰もが共通する思考をもとに感じたままを書いてみます。

 前置きしておきますが、決して犯罪者を容認する意味で論ずるものではないことを申し上げておきます。いまだ少年の生い立ちは公表されておりませんから、あくまで私個人が仕事柄で学んだ経験からの見解です。

 この事件のときに限らず、少年は普段から他者とのコミュニケーションが不得手だったようです。自分の思いや考えを他者に伝えるとき、強い緊張感が心に生まれ、徐々に不安や動揺に変化してくるのでしょう。本人からすれば、この緊張感のなかで思い切って言葉を相手に発し、思いを伝えようとしていつもりなのでしょう。

 少年の心根は、かなり臆病で用心深い性格だろうと感じますから、自衛の為に刃物を携帯し武装したのかもしれません。発想は単なる武器としてではなく、少年なりに自身の弱みを完全否定し、強い自分を装う意味もあったはずです。

「強い自分」であり続けるため

 少年院で外部と接触がほとんど遮断されていると、出所後、思春期の少年なら、すべての女性が輝いて映ったことでしょう。少年院と更生施設では監視体制が違い、動物と同様、外に出たくてたまらない感情が抑え切れなくて脱走。捕らえられることはどうでもよく、少年院で抑制されていた、さまざまな欲求を、可愛い女性にぶつけた結果なのでしょうか。

 臆病で用心深い性格の少年は、思い切って声をかけたが、自身を否定されたことに怒りが込み上げ襲おうとした。武装してでも強い自分であり続けたい自分が完全否定された勢いで、無理にも自分の欲求を満たそうとした。しかし、騒がれることは想定外だったのか、それにうまく対応する準備をしていなかったうえに逃げたくなかったのでしょう。

 少年なりの解釈で、自尊心を傷つけられたと感じた敗北感のなか、強い自分であり続けるために、次にとった行動は臆病な性格を隠す為に所持していた刃物で、自分を完全否定した相手を無言状態にすることでした。その興奮状態のまま、1人から否定されたら次は誰も同じだと被害妄想的な感情が増幅したのか、手あたり次第相手を見付けては、「俺を否定するな!」と言わんばかりの感情で無言状態にする行為を繰り返したと感じます。

 心のよりどころであるはずの身内からも見放された境地で、もし自暴自棄状態に陥っていた心の少年と関わった誰かが気付いて救って上げられていたら、と残念に思うとともに、この不幸な事件もなかったのではと考えます。

 少年が心神喪失・心神耗弱・精神疾患・精神障害だとして片付けると類似犯罪の根本的な解決にはつながらず、また、このように悲惨な殺傷事案が繰り返され、被害者も加害者も不幸な結果になってしまうことでしょう。

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