2024年04月25日( 木 )

業界団体の垣根を越え、連携しながらBIM普及を推進(後)

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建築倶楽部BIM推進協議会 会長 岩本 茂美 氏
((一社)福岡県建築士事務所協会 会長/(株)傳設計 代表取締役)

講習&実践でBIM習熟をサポート

 ――設計者目線から見て、これまでの2次元CADと比べたBIMのメリットはどのようなところにあると思われますか。

 岩本 まず2次元CADは、かつて我々が紙の上で線を引いて設計図を描いていたものを、そのままコンピュータ上に移行したようなものです。線を引くのにペンを用いるか、マウスを用いるかの違いであって、データとして取り扱えるというメリットは大きいですが、設計する側の感覚としては大きな違いはありません。

 一方のBIMは、コンピュータ上の3Dの仮想空間のなかで、属性情報をもつ建築部品を配置してモデルを組み立てていくようなやり方で、根本的な考え方からまったく違うものです。そうして組み立てたモデルに使われている建築部品は、それぞれ重さや断熱性能、遮音性能などの属性情報をもっており、設計に関するさまざまな計算に使えるほか、パラメータをいじれば、変更も容易です。また、2次元CADではたった1カ所の設計変更が生じた場合でも、対応するすべての図面の修正が必要でしたが、BIMはベースとなるモデルを変更すれば、そこから派生するすべての図面が連動して修正されます。習熟するのはかなり大変ですが、熟練者になれば作図時間が2次元CADに比べて3分の1から4分の1になるともいい、作業時間の大幅な短縮などが期待できます。

 ――現状、BIMの普及促進を阻んでいる壁とは何だと考えますか。

 岩本 1つは、今の話にもありましたが、習熟して実際に使えるレベルまでもっていくことが難しいというのがあります。これまでの2次元CADとは操作性が全然違うというテクニックの面と、属性情報をもったBIM上の建築部品の整備・準備にかなりの手間と時間がかかるというのが、なかなか普及が進まない大きな要因です。また、自社でBIMの環境を導入・維持していくのに、まだまだコスト面の負担がかかるというのも1つです。

 ――BIMの習熟が大変だという話でしたが、推進協議会では会員企業に対してどのようなサポートを行っていきますか。

 岩本 まずは講習会の開催です。BIMの設計に精通している方を講師に招いて、1回あたり4時間の講習を、40~50回ぐらい行っていく予定です。また、BIMに精力的に取り組もうとしている会員企業に対して、先ほど述べた実務部会でのJVを組むようなやり方で、3年くらいをメドに年間数件のBIMによる設計に携わる機会を設けるなどして、実践的に習熟を促していくとともに、またそこで得られたノウハウなどを推進協議会内で共有することで、全体のレベルの底上げを図っていきます。

推進協議会ではBIMの講習会も開催し、会員企業へのサポートを行っていく

 ――推進協議会として、ほかにどのようなことに取り組んでいきたいですか。

 岩本 1つの目標として、「BIM竣工」というものを目指したいな、と思います。これは、設計だけでなく、仮想空間上でBIMを用いて段階を追って施工をシミュレートしていくもので、BIMで竣工まで問題なく進めたものを、今度は実際の現場にもっていくイメージです。こうしたBIM竣工を経ることで、設計だけでは予測が難しかった現場での不具合や無駄の発生を防ぐ効果が期待できます。こうした、今までの設計では難しかったリスクヘッジ的なツールとしても、BIMを活用していきたいと思っています。

 ――最後に、今後のBIM普及推進に向けての意気込みをお聞かせください。

 岩本 いくら優れた技術・ソリューションであっても、それを使って恩恵を受けられるのが一部の大手企業だけというのであれば、意味がありません。中小企業や事務所にまでBIMが浸透し、それぞれがより良い設計を行ううえでBIMをツールとして使用することを当たり前にしていくこと――。そのために推進協議会は走っていかなければなりません。
 今回の推進協議会の活動の範囲は福岡県内ですが、そのうち範囲を隣県にも、ゆくゆくは九州全域にまで広げていきたいですね。これからBIMの普及推進に向けて、精力的に取り組んでいきたいと思います。

(了)

【坂田 憲治】


<PROFILE>
岩本  茂美
(いわもと・しげみ)
1985年3月に鹿児島大学大学院工学研究科建築学専攻を修了後、高校講師や鹿児島大学工学部建築学科助手を経て、88年4月に(株)隆設計事務所に入社。90年8月に伝設計事務所を設立し、96年8月に(株)傳設計へと社名・組織変更し、代表取締役に就任した。現在、(一社)福岡県建築士事務所協会の会長を務めるほか、各関係団体の役員などを歴任。長年にわたって建築設計監理業に精励するとともに、関係団体の役員として地方業界の発展に寄与した功績が評価され、2020年7月に国土交通大臣表彰を受賞した。

(中)

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