2024年04月19日( 金 )

「リアル半沢直樹」~コロワイドの大戸屋への敵対的TOB成立、誤算続きの買収劇で巨額詐欺、店舗爆発など不祥事が次々と発生(4)

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 ネット上で「リアル半沢直樹」と呼ばれた外食大手(株)コロワイドによる、定食チェーンの(株)大戸屋ホールディングスの敵対的TOB(株式公開買い付け)。テレビ放映中の経済ドラマ「半沢直樹」の第1~4話は敵対的M&A(合併・買収)がテーマ。同業者である大手IT企業と銀行による強引な買収計画を退けるため、俳優の堺雅人氏が演じる半沢直樹が奮闘、「倍返し」するというあらすじだ。ドラマとは異なり、コロワイドの敵対的TOBは成立。外食業界で敵対的TOBが成立するのは初めてのことだ。

短期の投資筋を呼び込んだことが、TOBが成功した要因

 株式市場では、敵対的TOBが成功した要因は、短期の投資筋と読んだ。
 コロワイドがTOBの期限を9月8日に延長すると発表したのは8月25日のことだ。その日の終値は2,700円で、TOBの買い付け価格3,081円より381円安い。「株式を2,700円で手に入れて、TOBに応じれば、サヤが抜ける。こんなおいしい話はない」と、利にさとい短期筋が大戸屋株に殺到した。

 同月26日の売買高は48万9,800株。前日の5万4,200株の9倍以上に膨れ、その後も、10万株から18万株を超える取引が連日続いた。大戸屋株の通常の取引は2~3万株程度ということを考えると、いかに「大商い」だったかがわかる。

 短期筋にとって、両社の主張などは重要ではない。関心があるのは短期で売り抜けるかどうかだ。短期筋がTOBに応じたことで、コロワイドはTOBの成立にこぎつけた。

 コロワイドは、短期筋が動くだろうと読んで、買い付け価格を据え置いたのだ。これが、短期筋を呼び込み、TOBに勝利した要因だ。
 コロワイドの野尻社長は、岡三証券(株)出身の証券市場を熟知した株式投資のプロだ。TOBを徹底したマネーゲームに変えたことによる作戦勝ちといえる。

 コロワイドは、当初目標としていた過半数を達成することはできなかったが、敵対的TOBが成立して面目が立った。株価の動きをにらんでの作戦において、株式投資のプロの野尻社長が株式ド素人の大戸屋の経営陣より一枚も二枚も上手だった。

初の敵対的買収の成功で、直面する難題

 コロワイドが矢次ぎ早に動いた背景には、主力の居酒屋が振るわないことがある。

 新型コロナウイルスの感染拡大が響き、コロワイドの2020年4~6月期決算は、売上高が前年同期比48.4%減の308億円に激減、純損益は41億円の赤字だった。直営の居酒屋など196店の閉店を決めた。その分、ランチに強く、女性客が多い大戸屋を取り込む重要性が増していた。

 しかし、大戸屋にもコロナ禍という逆風が吹き付けられている。20年4~6月期の売上高は前年同期比48.1%減の31億円、純損益は15億円の赤字だ。既存店売上高を見ると、4月は前年同月比63.1%減、5月は同40.4%減、6月は同30.0%減、7月は同28.6%減、8月は同28.5%減と前年同月割れが続き、回復の兆しが見えてこない。

 大戸屋の財務内容は悪く、もしコロワイド本体の再建を優先するならば、切り離しの対象になるほどであるが、それでもコロワイドは、大戸屋を取り込んだ。M&Aで成長してきたコロワイドにとって、敵対的買収は初めてだ。

 コロワイドは大戸屋の再建策として、外部で調理した食材を店内で仕上げるセントラルキッチンを導入し、仕入れや配送を効率化させるとしている。大戸屋が主張する店内調理は廃止する。大戸屋にとって店内調理は「一丁目一番地」というべき原点であり、経営陣や幹部社員がコロワイドの買収に抵抗してきた理由だ。コロワイドには大戸屋の社員を説得するという難問を抱えることになる。

 11月に開催される大戸屋の臨時株主総会で、コロワイド側が大戸屋の取締役に就任する。全員可決されるであろうが、賛成率が注目される。賛成率が6割を割るようでは、「前途は厳しい」といわざるを得ない。

(了)

【森村 和男】

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