2024年03月29日( 金 )

徐々に解明されつつある新型コロナウイルスの正体(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。全世界の感染者数は3,300万人を超え、死者数も100万人に達した。新型コロナウイルスの流行初期は、私たちは数カ月我慢すれば、新型コロナウイルスは終息するものと考えていたが、予想外の展開により将来に対する不安を募らせている人も多くなっている。新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同種のウイルスであるため、インフルエンザ同様に、今後は終息することなく、変異して人が罹患するという事態を想定するのが良いかもしれない。

 RNAウイルスにおいて変異が発生しやすい点について、変異が発生する領域が新型コロナウイルスのタンパク質の表面に突起のように出ているスパイクタンパク質にあることが最近の研究で明らかになっている。スパイクタンパク質はとくに、細胞に浸透する際に、決定的な役割をはたしている。このたんぱく質を構成しているアミノ酸のなかの614番目のアミノ酸が突然変異することが判明している。突然変異の発生自体は必ずしも悪い結果を導くとは限らない。ウイルスの突然変異の結果、寄生している生命体を死なせてしまうと、ウイルスも住むところをなくし、生存できなくなるからだ。

 もう1つ注目すべき点は、突然変異後、ウイルスが生き残って増殖するかどうかだ。感染症専門家の研究によると、新型コロナウイルスは月2回のペースで変異を起こしているという。ところが、その間に感染が広がった種類は2つのみである。D614変異とG614変異である。この2つはタンパク質の機能を強化し、結果的に感染力を高めた。中国・武漢で発生した新型コロナウイルスはD614変異であり、その後徐々に減少し、現在全世界で広がっているのはG614変異である。G614変異は、初期のD614変異に比べて、感染力が3~9倍高まっているという研究結果がある。

 現在アメリカで猛威を振るっている新型コロナウイルスもG614である。科学者たちはその間新しく発見されたウイルスがあれば、遺伝子の塩基配列を分析し、遺伝子変異を追跡してきた。幸いなことに、新型コロナウイルスの変異のスピードは予想よりは遅いということも明らかになった。感染症の世界的な専門家たちは、このスパイクタンパク質のことも研究し、その構造や作用機序などを解明しつつある。スパイクタンパク質にフーリン(Furin)という酵素が介入し、酵素がタンパク質を切断することで、ウイルスが細胞に入ることなどがわかるようになった。従って、スパイクタンパク質の活動を抑制することで、治療剤やワクチンの開発ができることも明らかになった。なお、この2つの変異以外にほかの変異がなぜ発生しなかったのかという疑問は残るが、まだ解明されていない。

 最後にワクチンや治療剤の開発動向について触れておく。ウイルスは人の細胞に寄生しているため、治療剤を開発するのは非常に難しい。治療剤の開発において、ウイルスを殺すことを目指すよりも、ウイルスが増殖しないように抑制する方法や、ウイルスがタンパク質や酵素の受容体と結合できないようにする方法の開発が目指されている。加えて、新薬を完全に一から開発するには時間がかかりすぎるということもあり、既存の薬を再利用というかたちで研究を行う場合が多い。すでに開発された薬は安全性が立証されており、また開発期間も短縮できるためだ。

 レムデシビルという薬は、もともとはエボラウイルスの治療薬である。その他に、マラリアの治療薬、エイズの治療薬を使っての新型コロナウイルスの治療剤の開発が真最中である。新型コロナウイルスにおいて突然変異が発生するため、それでは、突然変異したウイルスにワクチンははたして効果があるだろうかという疑問も湧いてくるであろう。現在のところ、不幸中の幸いにして、D614変異向けに開発されたワクチンはG614変異にも効果があるという。である。ワクチンの開発に当たって将来を予測するのは困難であるため、大手製薬会社はワクチンの開発にはあまり乗り気ではない。

(了)

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