2024年03月29日( 金 )

もう1つの解散総選挙シナリオ

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を紹介する。今回は、「年内総選挙の可能性は依然として高い。しかし、解散総選挙の時期には、もう1つのオプションが存在する。解答を得るカギは菅義偉氏が何を考えるかだ」と訴えた9月29日付の記事を紹介する。


9月16日に菅内閣が発足したが、いまだに所信表明も行われていない。
菅内閣の無責任さにあきれるが、これは同時に野党の責任でもある。
臨時国会の会期はたったの3日間とされた。

この措置は国対委員長によって承認されている。
野党を代表して折衝したのは立憲民主党の安住淳国対委員長。
自民党は森山裕氏が国対委員長。
安住氏が森山氏とテーブルの下で手を握って妥協している。

野党は臨時国会の召集を要求していた。
日本国憲法第53条に基づく国会召集の要求だ。
コロナ対策、桜疑惑、補正予算予備費の使途、河合克行・杏里議員の公選法違反事件など、審議しなければならない問題が山積している。

自民党は憲法改正草案に、
「要求があった日から二十日以内に臨時国会が召集されなければならない」
と明記した。
この改正草案を決定、発表したのは自民党が野党に転落していた時期だった。

野党になると「二十日以内に召集されなければならない」と憲法改定案に書き込んだのに、与党に戻ったら、野党が国会召集を要求しても一切これを無視する。
「法の支配」は自民党には存在しない。

野党も野党で、9月16日にようやく臨時国会が召集されることになったのだから、十分な審議時間を要求すべきだった。
3日間の会期で国会を閉会するとの与党の主張を跳ね返すべきなのだ。

安住氏の弱腰対応は、強気に出たときに、返す刀で安倍内閣が解散・総選挙に突き進むことを恐れてのもの。
こんな弱腰、および腰では、立憲民主党は永久野党に堕してしまう。

菅内閣が解散総選挙に打って出るなら堂々と勝負に応じる気構えがなければお話にならない。
野党の弱腰が日本政治の腐敗を加速させる一因になっている。

2020年に入って安倍内閣は失点続きだった。
むろん、それまでも失点続きだったわけだが、失点に拍車がかかったのが2020年。

19年10月に強行した消費税増税で日本経済は大不況に陥った。
コロナの陰に隠れたが、今回の大不況の第1の原因は消費税増税だ。
消費税増税で大不況に突入したところにコロナが日本経済を襲った。

コロナはグローバルに大不況をもたらしているため、この心証が強くなっているが、日本の場合、不況突入のそもそもの原因は消費税増税なのだ。

安倍コロナ対応は「3ミス」だった。
1.コロナ軽視、と 2.コロナ戒厳令を同時に推進するという支離滅裂対応
を示した。
他方で、3.実態把握に必要不可欠な検査を徹底抑制した。

条件付き30万円給付を閣議決定した後で条件なし10万円給付に差し替えるという混乱も示された。
アベノマスクは巨大な税金の無駄遣いの象徴になった。
星野源氏との無断コラボは批判で炎上した。

安倍首相が5月25日に「コロナ終息宣言」を堂々と述べた直後に新規感染者数が爆発的に増加した。
これらの失政続きで安倍首相が政権を投げ出したというのが政権交代の真相である。

その失政退陣の真実が病気退陣・平民宰相誕生の美談に書き換えられて三文芝居として上演された。

この三文芝居のからくりを暴くこともできず、野党は指を加えて傍観するだけだった。
弱腰野党の責任も重い。

20年の安倍失政を生み出した原動力は経産官邸官僚だ。
30万円給付案も経産出身の今井尚哉首相補佐官と財務省の太田充次官が主導して決めたもの。
アベノマスクや星野源氏とのコラボは経産出身の佐伯耕三秘書官が主導したものと伝えられている。

持続化給付金とGoTo事業では経産省が介在して電通に中抜き取引をしてきたことが発覚した。
多くの失政・不祥事が経産官邸官僚によってもたらされた。

安倍氏の政権投げ出しの機会を捉えて政権奪取に突き進んだ菅義偉氏は虎視眈々と策謀をめぐらせ続けてきたと見られる。
その菅義偉氏は経産官邸官僚を排除するとともに、衆院・解散総選挙のシナリオにもう1つのオプションを想定していると見られる。

巨大な補正予算で前代未聞のバラマキを実行している。
三文芝居の上演で3割を切った内閣支持率が急騰した。
メディアがつくる数値だから信用度は限りなく低いが、国民は簡単に騙されるから「嘘から出たまこと」が現実化してしまう。

このタイミングで選挙に打って出ない手はないというのが、総選挙に出馬予定の自民党候補者の本音だ。
年内総選挙の可能性は依然として高い。
しかし、もう1つのオプションが存在する。
解答を得るカギは菅義偉氏が何を考えるかだ。

菅氏にとって自民党が選挙に勝つことよりも重要なことがある。
むろん、選挙に勝つことを重要と考えているはずだが、それ以上に重要なことは自分が首相を長く務めることだと考えているだろう。

ワンポイントで終わりたくない。
これが菅氏の心情だ。

年内に選挙を実施してしまうと、たとえ自民党が勝利したとしても、2021年の自民党総裁選での菅氏続投が確約されると限らない。
21年秋の自民党総裁選で各派閥は新たな動きを示すだろう。

この点を考慮して衆院総選挙を21年秋に先送りするオプションが存在する。
来年秋に総選挙が先送りされる場合、自民党内で派閥抗争が激化して、菅氏を引きずり降ろそうとする動きが強まると自民党に対する批判の声が拡大する可能性が高い。

1年間の政権運営に大きな失策がなければ、総選挙を目前にして菅氏を引きずり下ろすことが難しくなる。
この道を選択する方が首相の座に長く座るためには好都合だ。

自民党総裁任期は3年に延長されたから、総裁続投後に総選挙に勝利できれば、追加的に3年間、首相の座にとどまることも不可能でなくなる。
このようなシミュレーションを菅氏がしておかしくない。

ただし、このオプションを選択するためには前提条件が必要だ。
それは、1年間、菅氏が失政を演じないこと。

失政の原因になり得るのは、1.コロナ、2.五輪、3.経済。
この3分野で失政を演じればすべては水泡に帰す。
自民党が総選挙で大敗し、野党に転落する事態すら考えられる。

この場合には、結果的に20年中に総選挙を実施しておくべきだったということになる。
文字通り、麻生内閣の轍を踏むことになるわけだ。

21年秋まで総選挙を先送りするための条件は、
1.コロナで失敗しないこと、
2.五輪で失敗しないこと、
3.経済をさらに悪化させないこと
の3つ。

この「三要件」を満たすことができるか。
「三要件」を満たすことができる展望をもつことができるかがカギになる。
菅内閣はGoToトラブル事業の全開体制に移行する。

同時に、五輪開催に向けて、外国人の入国規制緩和に踏み切る構えを示している。
明確な「コロナ軽視路線」に舵を切ったように見える。

この判断が吉と出るか、凶と出るか。
現時点で確証を得ることはできない。
しかし、極めて大きなリスクをはらむ選択であることは間違いない。

このような思考回路がもたれてなら、菅氏の頭のなかに「国民の利益優先」が置かれてはいないということになる。
「自分の利益優先」でなければこの選択はない。

国民が求めるのは「コロナリスクの軽減」と「経済活動維」の両立。
現時点で積極的にリスクを取りに行くことは、菅氏の利益になっても国民の利益にならない。
国民はリスクを軽減しつつ、慎重に経済活動の拡大させることを求めている。

巨大なリスクを抱えて五輪を強行することに賛同する国民はすでに激減している。
菅氏が「国民のために働く内閣」とあえて発言することに不自然さがある。

刑事コロンボに登場する犯人は、必ず「私は犯人ではない」と明言する。
こんなことをいうから怪しまれる。
菅氏の「国民のために働く内閣」は「国民のために働か内閣」の一文字をもじってみただけのブラックジョークなのだろう。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

関連記事