第一生命が詐欺容疑で『実録 頭取交替』登場の元社員を刑事告発 (6)19億円詐欺事件の舞台より
のどかな地方都市が舞台
10月2日、生保大手の第一生命保険西日本マーケット統括部徳山分室(山口県周南市)に勤務していた80代の女性元営業社員(特別調査役)が、顧客へ架空の金融取引をもちかけて不正に資金を集めていた事件。被害を受けた客は少なくとも21人、被害総額は19億円にのぼる。同社は、この女性営業社員を、詐欺容疑で山口県周南署に刑事告発した。告発された女性営業社員は、正下文子容疑者。
同事件については、NetIBNewsに連載中なので、こちらをぜひご覧いただきたい。
正下文子容疑者が、19億円という巨額な詐欺事件を企てたのか?正下文子容疑者単独で計画したのか?あるいは、共犯・教唆した人物が存在するのか?今後全容が明らかになるだろう。
同社の徳山分室は山陽新幹線徳山駅で下車し、徒歩10分くらいの場所にある。町並みには緑が多く、メインストリートにアーケード商店街があるのどかな地方都市で、おぞましい詐欺の舞台になったとは、まったく想像できない。
安定のサブスクリプション
大手生保企業のオフィスは、全国各地に営業拠点がある。大手生保企業OBの1人は、
「河原さん(筆者)、生保会社は全国各地の拠点のほとんどが自社保有のビルです。しかも都心部に近い目抜き通りに建っております。なぜだかわかりますか?すべてお客さまからの保険契約料によるものです。日本人は大手志向の傾向が、まだまだ強いです。とくに生保業界は、外資が参入しているなか、まだまだ国内大手生保が強いのです。契約料の高い安いは、それぞれの価値観なので断定できませんが…。全国各地の目抜き通りに自社ビルを保有できるのは、相応の保険契約料があるからです。人間が生きるためには衣食住が絶対に必要です。衣食住に続いて必要なコストとして存在するのは、生命保険です。すべての人々が生命保険を契約しているわけではありませんが、大半の人々は何らかの生命保険に契約しております。契約件数の割合は、まだ大手系が優勢です。なぜか?万が一死亡したときに、遺族の生活の一助として契約するのです。つまり多少契約料が高いと感じたとしても、〈万が一のために〉契約するのです。さらに大手系であれば『信頼できる』という心理が働きます。大手生保の力は絶大なのです」と語った。
大手生保OBの話を聞き、生命保険は安定度の高いサブスクリプションであることを確信した。なぜなら、一度契約すると満期か死亡するまで解約するケースはまれだからだ。相応の顧客をもつと、担当営業員は安定した収入を得ることができる。そして企業側は、有名タレントを起用した大々的なCMを流し、自社ビル保有のための投資もできる。正下文子容疑者が詐欺に手を染めたのは、大手生保および外資との競合激化により契約数が目減りしたのが原因だったのか…。
いずれにせよ今回の第一生命保険をめぐる事件は、顧客の信頼を裏切る行為であり、大手生保というブランドを失墜させたのは明白。顧客は、正下文子容疑者へ全幅の信頼を寄せていたものと推察される。
大手ブランドと老練の営業員という背景は絶大だったのだろう。今後の動向に注目したい。
【河原 清明】