2024年03月29日( 金 )

【大阪都構想】反対派猛追で焦る維新 公明・山口代表が大阪入りも学会員は二分

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公明党・山口代表が大阪入りして維新と街宣

創価学会員は「公明党を批判した維新は大嫌い」

 10月12日に告示された「大阪都構想」の住民投票(11月1日投開票)が、ほぼ横一線の激戦となっている。18日には、維新と公明が告示日に続いて2度目の合同街宣を梅田・難波・天王寺の3カ所で行い、公明党の山口那津男代表が東京から駆け付けた。維新代表の松井一郎・大阪市長と維新副代表の吉村洋文・府知事を横に〈そろい踏み街宣〉して、都構想への賛成を呼び掛けたのだ。

 約1万票差で否決された2015年の住民投票では反対した公明党だが、今回は賛成に転じた。松井代表が「公明の山口代表とこうして街頭で訴えるのは隔世の感がある」と語ったのはこのため。マイクを握った山口代表は、19年の大阪府知事・市長のダブル選挙での維新圧勝で「民意が示された」ことが方針変更の転機と説明した。維新との議論を通じて「(初期費用削減など)公明党の提案が受け入れられた」として前回との違いを強調、方針変更への理解を求めたのだ。

維新が街宣を行ったそばには、
「怒」と書かれたプラカードと
創価学会の三色旗を持った男性も

 ただし、地元記者は「賛否を決めかねる公明党支持者も少なくない」と指摘する。「『維新は都合の良いことしか言わない』という創価学会員の不信感や嫌悪感は根深い。山口代表の大阪入りは、固めきれていない公明党支持者へのテコ入れといえます」。

 実際、山口代表の街宣を聞いていた市内在住の創価学会員の夫妻は「仲間内でも賛否が割れている」と口をそろえた。そして妻が「公明党を批判した維新は大嫌い。都構想には反対」と明言すると、一方の夫は「迷っているので街宣を聞きにきた。まだ決めかねている」と複雑な心境を語った。国政選挙における公明支持の創価学会委員には一枚岩の印象しかないが、今回の都構想の住民投票では状況がかなり異なるのだ。

 当初は公明党の方針変更と吉村知事人気が重なって「都構想賛成派の勝利は確実」と見られていたが、告示日が近づくにつれて反対派が猛追し、先月まで10%以上もついていた差は3~5%にまで縮まっている。「『焦った維新が公明党本部に泣きついて、山口代表の大阪入りが決まった』と聞いています」(創価学会員)。

賛成派と反対派、「デマ」はどちらか

 現状については、「投票率が低い30代以下に都構想賛成が多い傾向があるため、告示日の段階でほぼ横一線状態」(地元記者)と見る関係者が多い。世論調査の数字で賛成派が若干上回っていても、反対が多い高齢者のほうがより多く投票場に足を運ぶのは確実なためだ。

 もうひとつ猛追の一因と思われるのは、都構想の本質が「政令指定都市・大阪」の廃止であり、その実態やマイナス面が次第に浸透していったこと。維新の大阪都構想のキャッチフレーズは、「大阪の成長を止めるな!」だが、これを疑問視したのが、元大阪府職員でれいわ新選組の大石晃子氏(衆院大阪5区予定候補)。

 山本太郎代表と一緒のゲリラ街宣で、「大阪は全国平均と比べても他都市と比べても成長していないし、(家計消費は)低迷しています」と反論したのだ。これを受けて山本代表が「データで見ると、こうなのです。雰囲気だと『(維新は)頼れるな』という感じなのですが、データは違う」と結論づけていた。まさに看板倒れとはこのことで、事実をみれば「全国平均以下の大阪の低迷を続けるために都構想に賛成してください」と言わなければならず、維新は虚偽情報(キャッチフレーズ)をタレ流していることになるのだ。

 告示日の合同街宣後の囲み取材で、松井氏にこの食い違いについて聞いてみた。直前の質疑応答で「反対派がデマを流している」と松井氏が話したのを受けて、「反対派は『(維新府政・市政)10年間で大阪は成長していない。府のGDPも家計消費も落ちている』と言っているが、これもデマなのか」と聞くと、松井氏は次のように答えた。

 「デマですよ。(11年に)我々が府市一体で行政を受け持ってからは、(成長率は)確実に伸びて行っています」。そこで、「何%ぐらい伸びて、どこの出典を見れば、書いてあるのか」と再質問をすると、こんな答えが返ってきた。「大阪府のホームページに載せていますから見てください」。

 たしかに、大阪府のホームページにある「データで見る『大阪府の成長戦略』」(19年12月版)には、維新府市一体行政(バーチャル都構想)が始まった11年の前年の10年から16年までの年平均成長率が記載されていた。もっとも、その中身は松井代表の主張とは違っていた。大阪府が「+0.79%」であるのに対して全国平均は「+1.29%」で、二重行政を解消したはずの大阪府のほうが、全国平均より下回っていたのだ。

 維新府市一体行政が始まった11年から16年に限定しても、大阪府の「+0.58%」に対して全国平均は「+0.95%」と、やはり全国平均を下回っている。れいわの大石氏の主張のほうが大阪府のデータと一致して正しく、維新の謳い文句「大阪の成長を止めるな!」のほうが「間違い」(デマ)なのだ。

大阪市消滅で財源2,000億円を府が「カツアゲ」

 二重行政を解消した府市一体行政(バーチャル都構想)の効果があるとすれば、二重行政の残る他地域より大阪府の成長率のほうが高いはずだが、結果は逆だ。大阪府のHPを確認したうえで10月15日の松井市長会見で、「『大阪の成長を止めるな!』の維新のキャッチフレーズはイカサマではないか」と改めて聞くと、こんな答えが返ってきた。

 「大阪のGDPが伸びているというのは、これは間違いない。大阪の成長の試算はちょっと一度検証させてもらいます。どういう基準で数字が出ているのか。大阪府・市がそれぞればらばらよりは、確実に成長しているのは明らかですから」

 しかし「確実に成長」と松井氏が言っても、「11~16年の年平均成長率は0.58%」で、掲げた目標の年平均2%未達が続いている。これは大阪市民の実感とも一致している。市内在住の公明党支持者に「維新の府市一体行政9年間で、大阪が成長したり、生活が豊かになったりした実感はありますか」と聞くと、「まったくない」という回答が返ってきたのだ。

 れいわの山本代表はゲリラ街宣で、大阪府知事時代の橋下徹氏の発言である、「大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る」を紹介しつつ、「大阪市消滅で2,000億円程度(の財源)がカツアゲされる」と都構想(大阪市廃止)のデメリットを端的に紹介、反対を呼び掛けている。

 このような大阪市廃止のデメリットを、二重行政解消のメリットが本当に上回るのか。維新の府市一体行政で大阪は成長していたのか。両派の論戦が激しさを増す中、どちらの主張に大阪市民が軍配を上げるのかが注目される。

【ジャーナリスト/横田 一】

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