2024年03月29日( 金 )

地域の市民主体による太陽光、風力などの再エネ発電所~全国の市民発電所は1,000カ所以上に

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

地域の市民主体の再エネ発電所の運営

 東日本大震災の福島原発事故や度重なる台風・豪雨災害で甚大な被害を受けている昨今、使えることが当たり前と感じられてきた電気の問題は「他人事ではない」時代になっている。

 地域の市民が主体となり、発電所設置の資金を出資し、太陽光や風力、小水力などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)発電を行う「市民発電所」は、全国1,000カ所以上に拡大しているという。

グリーン ピープルズ パワー(株)
代表取締役 竹村 英明 氏

 地域の市民主体で運営する太陽光などの再エネ発電所の電気を供給する電力小売業(新電力)のグリーン ピープルズ パワー(株)(以下、GPP、東京都新宿区)・代表取締役・竹村英明氏は「全国各地で原発などに疑問をもった市民主体で運営する発電所が2012年のFIT制度()開始以降、数多く立ち上がっている。市民主体で再エネ発電所をつくり、市民が収益を上げて事業者として運営できるという手ごたえを感じてもらえる時代になった」と話す。

 また、市民発電所は「地域の市民主体であるため、再エネで課題になりがちな地域への一方的な負担も少なく、地域に受け入れられる発電所。GPPでは、地域の反対運動のない発電所の電力を購入している」という。

 竹村氏は14年に、原発や石炭火力発電に頼らず、再エネ活用を目指す市民運動を発展させてNPO法人市民電力連絡会を設立。同連絡会は市民電力事業者の連携と活性化を目指しており、全国で発電事業を行う約80団体と個人約70人が加盟している。
15年には同連絡会の有志が株主となり、再エネの市民発電所を設置・運営するイージーパワー(株)を設立した。

先駆的な市民発電~チェルノブイリ原発事故直後から

 市民発電所の始まりは、なんと1980年代のチェルノブイリ原発事故の直後に遡るということであり、驚くほどに先駆的だ。チェルノブイリ原発事故を受けて原子力発電の代わりに安全に使えるエネルギーの模索が始まり、山梨や京都などで一市民が主体となって太陽光発電の設備を設置する運動が始まった。それらは少しずつ規模が拡大し、今では市民発電事業者や団体となっている。イージーパワーはそれらの先達の影響を受け、その理念を受け継いだものだ。

 GPPは、山梨自然エネルギー発電(株)と連携した49.5kW(2カ所)と39.6kW、千葉県匝瑳市の市民エネルギーちば(合)(19年に株式会社化)と連携した49.5kW(2カ所)の計5つのイージーパワーが出資し運営する太陽光発電所のほか、市民運営の太陽光や卒FIT発電所から電力を調達している。

 東日本大震災後に原発に頼らずに電気をつくろうと、市民エネルギーちば(合)を設立した東光弘氏は、畑の上に太陽光パネルを設置する「ソーラーシェアリング」に注目した。作物の品種を選べば生育にほぼ影響はなく、太陽光パネルなどの設備が農作業の邪魔になることもほとんどないため、太陽光発電と農業を両立できるという。

畑の上に太陽光パネルを設置する「ソーラーシェアリング」

 GPPが電力小売業を開始した19年度の電源構成(電力の構成割合)は、FIT・卒FIT太陽光24.6%、日本卸電力取引所(JPEX)からの調達電力75.4%になった。まだ再生可能エネルギー比率は低いが、太陽光発電所のみでなく、時間帯や天候による影響を受にくい小型風力や小水力発電所からも電力調達を進め、21年度は再生エネルギー比率約60%を目指す。
 竹村氏は「電気の市場価格が高くなる時間帯に運転できるバイオマス発電所は、需給調整の調整力として使いたいと考えている。その場合は、林業のサポートとなる地域の間伐材や廃食油(使用済の天ぷら油)など国内のバイオマス資源にこだわりたい」と強調する。

地域で発電した電力をそのまま使える「地域オフグリッド」

 竹村氏は「市民発電所は50kW未満の小規模な発電所が多いため、大規模な発電所とは異なり、送電線などの電力系統に接続できないという問題は起こっていない。将来的には、50kW未満の太陽光など小規模発電所を地域に設置し、蓄電池を活用して近隣十数件の住宅などが、その電気をそのまま使える『地域オフグリッド』を目指している。それぞれの市民が発電所のオーナーになり、既存の送電系統から『穏やかに自立』することで、地域で使いたいエネルギーを選ぶことが可能になる。豪雨などで既存の送配電網が被災し停電しても、蓄電池などを活用して地域で停電が起こらない仕組みづくりが必要だ」と語る。

 さらに、「今は電気を運ぶ送電線を大手電力会社が所有しており、使用するためには託送料金が必要だ。しかし今年6月に成立したエネルギー供給強靭化法では、地域内配電網の売却やレンタルなどを可能にする方向で法改正が行われたため、将来的には地域で自立して送電線を使うことが可能になる」という。以前は当たり前だった既存の電力発電、供給の仕組みを今こそ見直す時期にきているのではないだろうか。

【石井 ゆかり】

※:太陽光や風力、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーを促進するため、固定価格で一定期間にわたり買い取る制度。 ^

関連キーワード

関連記事