2024年04月25日( 木 )

AIチップの熾烈な開発競争(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 本格的なAI時代の到来に向けて、AIチップ開発の需要が高まっている。自動運転や生産性向上のための目玉として喧伝されているIoTが本格的に普及するためには、AIチップを実用化することが必要だ。データ処理能力が高まるAIチップが開発されると生活や社会が大きく変化し、あらゆる分野で企業の競争力を高めることになるだろう。

AIチップ開発の背景

 それでは、AIチップが必要となった背景について見てみたい。従来のCPUは、複雑な演算をすることは得意だが、AI処理に必要な並列、確率的な計算処理を行うことに適しておらず、多くの時間と莫大な消費電力が必要となってきた。そのため、音声認識の処理、画像処理などをデバイスで行うためには、CPUでは処理速度が足りず、やはりその製品に特化したAIチップが必要となる。

 従来のAIは主にクラウドに搭載され、クラウドで行った学習や推論の結果をインターネットでつながっているスマートフォンやセンサーといった端末側(エッジ)に送る方法が一般的だった。しかし、チップが高性能になるにつれて、エッジ機器にもAIを搭載する流れへと変化している。

 このようにエッジ側に学習と判断ができるAI機能を設置することができれば、今までの限界を克服し、既存のCPUやGPUを用いたソフトウェアベースのAI処理では実現できなかったことが可能になる。

 そこで限界を克服する方法として注目されているのが、AI機能のハードウェア化である。世界の半導体業界はAIチップの開発競争にすでに突入している。米国のインテル、NVIDIA、Google、アマゾン、中国のアリババなどがAIチップを開発している。電気自動車メーカーのテスラも、自動走行向けのAIチップの開発に取り組んでいる。

AIチップの開発競争

 なかでもとくに注目が集まっているのは、画像処理に強いGPUのグローバル企業NVIDIAである。NVIDIAは、AIの処理に向いている既存のアーキテクチャを活かして、AI処理により適したチップを開発し、現在は開発競争の先頭を走っている。

 NVIDIAに対してライバル意識を燃やしているのはインテルである。インテルはAI関連の企業を買収し、AIチップの開発に攻勢をかけている。また、Googleも独走を続けるNVIDIAに挑戦状を叩きつけた。Googleは「TPU(Tensor Processing Unit)」というAIチップを開発し、それをコンピューター囲碁プログラムの「アルファ碁」の学習処理に用いることで、その省電力性や、学習スピード、性能の高さをアピールした。

 韓国政府もAIチップの重要性に気づき、2029年までにおよそ10年間で1兆96億ウォンを支援する「AIチップ10年育成戦略」を発表している。サムスン電子も、メモリ半導体に続く次世代の成長エンジンとしてAIチップ市場に狙いを定めている。サムスンは30年までにAI開発人材を今の10倍である2,000人に拡大する予定だ。

 AIチップの開発における一番の課題は、消費電力を下げることだ。ディープラーニングは、ビッグデータを処理するために大量の計算が必要であり、現在の消費電力では、AIチップの実用化は厳しい状況だ。

 AIチップの市場は今後、急速に拡大が見込まれる魅力的な市場である。AIチップの市場規模は18年の51億ドル(約5600億,円)から、25年に726億ドル(約8兆円)と約14倍に伸びると予想されている。

 AIチップはデータセンターをはじめ、携帯端末など、さまざまな製品に搭載されると見込まれ、市場規模が巨大化すると予想されているため、世界で各社が開発競争にしのぎを削っている。

(了)

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