2024年04月23日( 火 )

災害時の電気確保に向けた国際電気規格~都市サービス継続できる防災対策へ

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災害時の早期復旧

 国際電気標準会議(IEC)は今年7月、地震や洪水、サイバーテロなどの災害時に停電が起こった場合でも、その影響を最小限に抑え、医療や公共交通、物流などの重要性の高い都市サービスを継続できるよう、必要最低限の電気を確保する仕組みについての国際規格(IEC 63152)を発行した。この国際規格は経済産業省からの委託を受けた日本規格協会が提案し、IECにおいて承認および発行されたものだ。各都市で災害に強いまちづくりを図るとともに、AIやIoTなどを活用し、都市機能を維持するために電力が欠かせないスマートシティ開発でも利用されることを目指す。

 この国際規格は、災害などの非常時に損害を抑えて事業を続け、早期の復旧を目指すため、今後、経済産業省などの「事業継続計画(BCP)ガイドライン」に引用され、リスクファイナンスを背景にした金融機関の融資条件などに採用されることで、自治体や企業などのBCPに基づくインフラやシステム投資を促し、都市の防災力強化につながることが期待されている。これまでBCP指針として、経済産業省の「事業継続計画策定ガイドライン」や内閣府の「事業継続ガイドライン」などが示されてきた。この国際規格の内容を以下に紹介する。

停電時の電力確保

 今回発行された国際規格「災害時の都市サービスの継続性に資する電気継続の仕組み」(IEC 63152:2020 Smart Cities - City service continuity against disasters - The role of the electrical supply)は、東日本大震災などの災害の復旧・復興の経験やノウハウを生かし、災害の影響を最小限に抑える仕組みを国際規格化したものだ。これまでの災害による停電時に、施設やエリア内などで電力の利用状況を共有し、電力などの融通を行ってきた事例を生かしてつくられたという。

 この国際規格では、地震や洪水、サイバーテロなどが発生し、電力系統から都市機能の維持に必要な電気の供給がなくなった場合でも、医療や交通、電気・ガス・水道などの重要性の高いサービスの提供事業者が電気を確保できるよう、企業の施設管理部門や商業施設の管理会社、自治体の公共施設管理部門などに対して、BCPに基づいて「都市サービス継続性の向上に資する電気継続計画(ECP)」を定めることを求めている。

 ECPでは、自治体や事業者ごとに、電力供給を優先すべき先やその供給手順をあらかじめ計画で決めておくことが必要だ。また、停電時には、必要な電力を優先すべき先に供給できるよう、自家用発電機や蓄電池などの設備機器の運用方法をECPに定め、ECPを実装する「電気継続システム(ECS)」を構成する機器などの要求仕様を規定して設置することを求めている。また、災害フェーズごとにECSのマネジメントを事前に準備することを促すとともに、各エリアで交換すべき情報(電力系統との接続情報、停電時間、予備電源の動作・残存状況など)などをガイドラインとして例示している。

  

 このIEC規格は法令とは異なり、単独では強制力のない指針である。そのため、自治体や行政、業界団体などのガイドラインへのこの国際規格の採用動向に注目したい。また、この国際規格は日本の設備やシステム仕様に親和性が高いため、世界各地の都市開発ガイドラインに採用されることで、海外において日本の関連設備、システムの導入が促進されることが期待されている。

【石井 ゆかり】

図1 電気継続システム(ECS)基本モデル
図2 複数の電気継続システム(ECS)連携モデル

電気継続計画(ECP)

 停電時に都市サービスを続けられるよう、必要な電気を確保するための緊急対策や実行すべき計画などを定める。自治体や企業は、「どの施設を優先すべきか」「何Wの電力を何時間確保することが必要か」など、ECPに定めるべき下記の項目を検討し、対応できるよう計画をあらかじめ立てておく。

検討すべき事項例

必要な電源容量の算出方法
電力系統からの分離・接続手順
自家発電装置の燃料補充手順
二次災害防止対策 など

電気継続システム(ECS)

 都市または地域が、災害に対応できる拠点となるよう、ECPを基に実装するシステム。

実装するシステム例

自家発電装置
蓄電池
災害情報共有システム(Lアラート等)
エネルギーマネジメント など

エリア、施設のECS連携モデル

 災害時も複数の地域や企業などのECSを連携させることにより、広域で災害の被害を抑え、事業を継続・早期復旧できることを目指す。ECS連携では、以下の3つのタイプをガイドラインとして提示している。

タイプ1:エリアごとに独立対応

 災害情報をトリガーとして、それぞれの地域や企業のECSが独立して電気供給を継続できるように対応する。

タイプ2:エリア間で情報共有

 各地域や企業間のECSの電源の使用状況を共有し、必要に応じて近隣のエリアや施設から自家発電の燃料を融通するなどで電気を確保。たとえば、停電時に自家用発電機の燃料が余っているエリア1から不足しているエリア2に運ぶことで、エリア2で発電できる体制を整える。

タイプ3:エリア間で電力融通

 自家発電の使用状況を基にして、各都市サービスの分野ごとに各ECSを通じてお互いに電力を融通する。たとえば、発電能力はあるが電力利用が少ないエリアAから、発電できず電力利用が多いエリアBに送電する。

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