2024年04月19日( 金 )

鋳物技術を軸にマーケットをつくる 国内トップ鋳物メーカーの挑戦

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日之出水道機器(株) 代表取締役社長 浅井 武 氏

ものづくりの精神で果敢にチャレンジ

 ――御社はマンホール蓋で国内トップシェアを誇る鋳物メーカーですが、自社の強みはどこにあると考えていますか。

 浅井 1919年の創業以来、当社はものづくり企業として独自の技術を磨いてきました。とくにマンホール蓋業界で初となるような新しいチャレンジを続け、顧客の課題や社会問題を愚直に解決してきたと自負しています。その結果として、新しい材料を開発する力や、鋳物として最適な構造物を設計できる技術、顧客ニーズに細やかに対応できる生産システムを進化させてきました。材料開発から加工、組立て、販売までを一気通貫で担えることも強みだと思います。

 ――佐賀県みやき町への「企業版ふるさと納税寄付(450万円)」で、8月21日に贈呈式が行われました。

 浅井 末安伸之町長が推進するスポーツを通したまちづくりに共感し、今回の企業版ふるさと納税寄付をさせていただきました。当社とみやき町との関係は、安定した供給体制を確立するために、それまで板付にあった工場を94年にみやき町へ移転したことから始まりました。これが現在の佐賀工場です。みやき町は東西への交通アクセスが良好で、人口も増えているポテンシャルの高いエリアだと感じています。

 ――工場や物流施設を置く地域への図書費の寄付も継続しています。

 浅井 毎年図書費を寄付し、「日之出文庫」として地域住民の皆さまに活用していただいています。地域への恩返しとして継続してきましたが、これをきっかけに地域の皆さまが当社のことを知ってくだされば幸いです。工場なくして価値を生むことができない私たちにとって、生産拠点を構える地域との関係こそ最重要だと捉えています。まち全体や地域に暮らす人々と良好な関係を築きながら、これからも恩返しができたらと思っています。

 ――御社の「デザインマンホール」が、コミュニケーションツールとして全国的に注目を集めています。

 浅井 マンホール蓋は、下水道施設のなかで唯一、人の目に触れる存在です。そのため、マンホール蓋の表面デザインは、市民に情報発信できる有用なコミュニケーションツールにもなり得ますので、安全性を確保したうえで、自治体や企業など顧客の要望に沿ったデザインを提案してきました。みやき町でも、四季折々の景観とみやき町のイメージキャラクター「みやっきー」を描いたデザインマンホールを開発させていただきました。ほかに福岡市でも、「FUKU 51 MANHOLE(フク コイ マンホール)プロジェクト」という市独自のプロジェクトに参加させていただきました。これは、市内51カ所に設置されています。

 また、「デザインストリーマー」という歩道専用の商品を製造・販売していますが、これは取替え可能なデザインプレートを組み込んだ商品で、オリジナルデザインをあしらったプレートを簡単に付け替えることができます。イベントの情報発信や道案内などに活用していただいています。

みやき町・マンホール蓋写真(左)とマンホールカード(右)

超多品種少量生産で市場開拓とイノベーションへ

 ――昨年で創業100周年を迎えました。今後のビジョンは。

 浅井 鋳物技術を軸にマーケットをつくるという、基本的な戦略は変わりません。これまではマンホール蓋を主とした公共事業が中心でしたが、これからは民間企業の需要を開拓しながら業績拡大を目指したいと考えています。世界的に見ても、まだまだ鋳物の需要は高く、マーケット開拓の余地は高いと確信しています。

 ――技術面でのイノベーションを、どのように起こしていかれますか。

 浅井 製造業におけるコンピューターやIT、インターネット通信などを駆使した産業および社会構造の変革の取り組み「インダストリー4.0」が、世界中で活発化しています。そうした動きのなか、我々が次の時代に目指すのは、従来の多品種少量生産を超えた「超多品種少量生産」です。我々ならではの開発力と生産技術力を駆使してあらゆるコストを抑え、市場の需要に応え続けたいと考えています。

 ニーズにいち早く対応するためにはスピードが要求されますが、だからといって闇雲にエラーを重ねると、コストがかさむだけです。デジタルのシミュレーション技術と蓄積された鋳物技術を駆使し、スピーディーに確実に狙った性能の製品をつくり出す。簡単なことではありませんが、これまでも幾多の困難を乗り越えてきた我々には、できると信じています。鋳物のプラットフォーマーとして、顧客の求める価値づくりに貢献していきたいと思っています。

 ――みやき町の佐賀工場が、大規模リニューアル予定です。

 浅井 完成予定は2022年度で、再来年1月から試運転をスタートし、4月には商業生産に着手して9月に本格稼働する見通しです。世界的にも注目されるような、画期的な生産ラインを組み上げる予定です。これから5年間でベースとなる生産体制を確立させ、次世代に向けた新たなイノベーションの道を探る。佐賀工場のリニューアルはその第一歩であり、私たちのビジョンを象徴する存在となるでしょう。

2022年完成予定の生産ライン イメージ

【安永 真由】


<COMPANY INFORMATION>
日之出水道機器(株)

代 表:浅井 武
所在地:福岡市博多区堅粕5-8-18
設 立:1919年6月
資本金:9,000万円
URL:https://hinodesuido.co.jp


<プロフィール>
浅井 武
(あさい・たけし)
熊本県出身。九州大学法学部卒。1978年に新日本製鐵(現・日本製鉄)に入社後、2009年建築・鋼構造事業部長、13年取締役常務執行役員、14年日鉄住金パイプライン&エンジニアリング社長。17年に日之出水道機器副社長を経て、18年に社長就任。

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