2024年03月29日( 金 )

【凡学一生の優しい法律学】学術会議推薦無視事件(7)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

総理大臣の違法犯罪行為(その2)

 菅総理大臣の学術会議委員の推薦無視行為が違法・犯罪行為であることについて、具体的に指摘した論考が少ないため、学術会議法(以下、同法)の具体的条文を根拠として以下に指摘する。

1. 同法第7条第1項 日本学術会議は210人の会員によって組織する旨の規定

 この組織規定は実質的な意味をもつため、菅総理大臣の違法行為によって現在204名の会員しか存在しない日本学術会議は、法的には不存在の状態にある。

 同法第24条1項の「総会」の開催について「総会は、会員の2分の1以上の出席がなければこれを開くことができない」旨の規定があるが、「会員の2分の1以上」が算定不可能であるためだ。同法で規定された会員210名の2分の1である105名と、実在する会員204名の2分の1である102名のいずれかと判断することができない。

 このことは同法第24条第1項の規定を無機能化したものであり、政府にとって不都合な学者を任命しないことを「続けること」そのものが明らかな違法行為であることを、国民は理解しなければならない。

2. 会員6名の任期が算定不能

 同法第7条3項は、会員の任期は6年であり、3年ごとに半数が改選されると規定している。

 今後、任命されるであろう6名の欠員会員について、その任期の開始日はいつになるのか。委員の任期を6年とすれば、今後はこれらの6名の推薦、任命時期を別途、設けざるを得ない。別途として扱うことを避けるためには、特別な立法措置が不可欠である。

 学術会議は国家予算を投入する組織であるため、上記の問題が控えている。菅総理大臣はこれらの問題について、得意技である「うやむや」な対応で乗り切るつもりであろうか。もちろん、うやむやにすれば違法・犯罪行為である。

3. 同法第25条および第26条との不整合

 総理大臣には会員の辞職承認権能がない旨(同法第25条)と、会員の退職命令権能がない旨(同法第26条)が規定されている。

 会員の辞職は学術会議の「同意を得て」総理大臣が承認できるという規定および、会員を退職させるためには学術会議の「申し出に基づき」総理大臣が退職させることができるという規定は、任命が学術会議の「推薦に基づく」という規定と関連して、総理大臣の「形式的」任免権の規定として制定されている。

 政府は「推薦無視」違法行為を憲法15条の国民の公務員「任命・罷免」権に基づくものとして正当化しているが、それであればこれらの条文も無視できることとなる。そのため、完全な日本学術会議法の無視であり、明らかな違法・犯罪行為である。

 一部の学者による、菅総理大臣の独裁化への道程であるとの批判は十分に理がある。

4. 政府主張の根本的な誤り

 法令の規定は基本的には規範であるため、権利規定でもあり義務規定でもある。政府の見解はすべて「任命権」という権利概念のみを用いて解釈しており、法令のもつ義務規定の側面を無視した独善の解釈である。

 今回の事件が、210人の学者を学術会議の推薦に基づいて任命し、学術会議を組織することが総理大臣の法律上の義務であることをまったく無視した違法犯罪行為であることは、誰の目にも明らかである。

 なお、同法第16条の事務局規定には、学術会議の職員の任免は「会長の申し出を考慮して」総理大臣が行う旨の記載があることから、同法は一般職国家公務員と会員である特別職国家公務員を明確に区別して立法されており、政府の憲法第15条の援用そのものが憲法および同法に対する誤解に基づいていることは明白である。

(6)
(8)

関連記事