2024年03月29日( 金 )

積水ハウス「地面師」事件の総括検証報告書を読む~和田前会長と阿部会長の対立の原因となった経営責任は不問に付す(中)

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 積水ハウス(株)は12月7日、2017年に起きた東京・五反田のマンション用地の詐欺事件をめぐり、外部の弁護士による総括検証報告書を公表した。外部専門家による事件の検証の公表は今回が初めてだ。事件をめぐり社外監査役と社外取締役による調査報告書を全文公表しなかったことが問題視された。詐欺事件で起訴された犯人グループ全員に有罪判決が出たのを受け、弁護士3人で構成する「総括検証委員会」を設置し、報告を受けた。

真の所有者と名乗る者から送られてきた通知書

 和田氏の乱を封じ込めた阿部会長ら経営陣は、詐欺事件で起訴された犯人グループ全員に有罪判決が出たのを受け、外苑法律事務所の菊地伸弁護士を委員長とする弁護士3人で構成する「総括検証委員会」を設置した。

 同委員会から報告を受けて公表した総括検証報告書(以下、検証報告書)は、2018年の調査報告書の全文(ただし肝心なところは黒塗り)を含め100ページ以上にわたるもので、事件の概要、原因分析、再発防止策の実効性検証、事件発覚後の積水ハウスの対応の検証などを詳述している。検証報告書の核心部分を取り上げる。

 検証報告書から、法務部が「騙されている可能性があるように思います」と指摘していたことが明らかになった。積水ハウスはその後、本人確認をしたが、リスク情報を生かせず被害を防げなかった。その経緯をたどってみたい。

 17年の東京・五反田のマンション用地の売買契約直後の5月10日、積水ハウス大阪本社に、真の所有者と主張する者から「御通知書」と題する内容証明郵便が送られてきた。その内容を以下に紹介する。

 自身は売買契約を締結していない。不動産の仮登記に用いられた印鑑は自身の印鑑ではなく、偽造されたものである。自身は面会謝絶で長期間入院中であり、4月24日の売買契約に立ち会うことができる状態になかった。自身の印鑑登録証のカード番号であるという番号を示した上、自身が同カードを保有している。パスポートが提示されていたとしても、その写真が本物ではないことなどを理由に、不動産に設定した仮登記の抹消を求めた。

 だが、同人の居所や連絡先は記載されておらず、代理人の記載もなかった。その後の裁判で、通知書を出したのは真の所有者でなく、その弟だと認定された。

マンション事業本部長は、通知書は取引を妨害するためと判断

 この通知書を受けて、積水ハウスはどう対応したのか。

 積水ハウス法務部長の中田孝治氏は、弁護士資格を有する法務部主任に対し、「状況を追跡してもらえますでしょうか。もしかしたら騙されているのではないかと思います」と指示した。そこで、法務部主任は東京マンション事業部に確認した。

 東京マンション事業部は、通知書の差出人の住所が現在は誰も住んでいない本件不動産になっていること、連絡先が一切記載されていないなどの不審な点が認められること、X(地面師)の本人確認については公証役場で行われていること、司法書士が複数の書類で確認していること、所有権移転請求権の仮登記も完了していることから、不動産の取引の場にいたXが他人のなりすましであるとは考えられないと判断した。

 5月22日、中田法務部長の出席のもと、マンション事業本部の対応会議が行われた。三谷マンション事業本部長から、通知書など一連の動きは、今回の契約を快く思っていない人物が、取引を妨害する目的で行っているのであろうとの見解が示された。

 「懸念点はXの本人確認に十分な時間が取れない」ことだとする弁護士の助言を受けて、5月23日に弁護士事務所でXと面談した。偽X(地面師)に対して、真のXを名乗るものからの書面が届いていることを説明したところ、偽Xは、そうはいわれても自分はここにいる、自分はそのような書面を送っていないなどと述べ、積水ハウスが用意した確認書に、その場で署名捺印した。

 面談後、三谷マンション事業本部長は、残代金の前倒しを決定した。

(つづく)

【森村 和男】

(前)

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